クランベリープリンセス
著者:創作集団NoNames



        5

「愚か者が一人、やってきたか」
 シルバは虫けら以下といわんばかりに見下す。
「馬鹿者が、ミリアベル以上の馬鹿者だな」
 ラウゼンは呆れた風に言う。
「本当。俺も自分を疑うよ。確実な仕事しかやらない俺がこんな無茶に首を突っ込みたがるなんてね」
 改は散々言われて肯定するしかなかった。
「…弟子のために命張ろうとする人に感化されちゃったかな?」
 改の発言にラウゼンは意外そうに改を見た。
「やっぱりね、あんたも馬鹿だよ、馬鹿は馬鹿でも親馬鹿のね」
「んな、なにを知った風な!」
 改はニヤッと笑うとシルバを見た。
「あんたさー、結構若そうに見えるけど大分歳くってるよな?明らかに若作りに励んでるような顔してんもの!」
 改はシルバに向かって叫ぶ。
「小僧!時間稼ぎのつもりか?そんなに死にたくないならさっきの輩と共に逃げれば良かったのに、もっとも数分の長生きに過ぎんがな」
 シルバは動揺することなく返した。
「大した自信だね。やっぱりそれは長〜〜い!人生経験からかな?」
 改はわざとらしい口調でつなげる。
「そりゃそうじゃ、あやつはもはや生きた化石以上の長生きじゃろ。本当の姿なぞさらしたら化石のように風化して原型を留められんわ!」
 ラウゼンも改の時間稼ぎに協力しようと話に参加する。
「ラウゼンよ貴様に言われたくない。それに私はそんなに年ではない!」
 魔女といっても所詮は女なのかやはり年と言われるのはどうも好かないのだろうか口調が少しだが荒々しくなってきている。
「そんな怒るなんてやっぱり触れられたくないほどの年なんじゃん?辛いねー長生きも」
 改の言動にラウゼンも少しばかり動揺するが抑える。
「もうよい!相手するのも疲れた。死ね!」
 シルバはもうこれ以上の会話は苛立ち以外の何物でもないと判断して、ついに実力行使に移った。手を天にかざすとその上空に先端を鋭利にした氷の刃が数本現れ、そして手を振り下ろすと同時に氷の刃が二人に目掛けて飛び出した。
「若いの!儂の後ろに!」
 言われたとおりに改はラウゼンの背後に移動した。
 ラウゼンが両手を前に突き出すと目の前に木々が突如として生えてきた。氷の刃はそのまま木々に刺さり動きを止めた。
「ここでは儂の方に分がある。悪いが負ける気はせんよ」
 ラウゼンは余裕そうに語る。
「この森全てが私の味方だ。この状態ではお前に勝ち目はないぞ!」
「ふん!そんなことは百も承知、なんのために私があの役立たずどもを、こんな石っころにしてとっておいたと思うんだい?」
 シルバはラウゼンの余裕そうな顔をみて嘲るように石を見せる。
「この石、あの石の模造品だと言ったはずよ」
 そう言ってシルバは石をまるで蛇が卵を丸呑みにでもするかのように石をほおばり、苦もなく飲み込んだ。
 改とラウゼンの二人に戦慄が走る。
「なんと言うことだ…このままではやばいのう」
 ラウゼンは焦りを隠せないでいる。それは改も同様だった。肌で感じられる。さっき以上に大気の圧迫感が強い。気分が悪い。
「ふうぅ…さて」
 シルバは腹を擦りながらこちらを見やる。
「!」
 その眼光に思わず改は凍りついた。
(ヤバイ、ヤバ過ぎる!こりゃ死んじゃうかも…)
 シルバは再び手を天にかざす。氷の刃が先の倍以上の無数の刃が上空を停滞していた。
「しんどいのー、若いのしっかり隠れとけよ!」
「言われないでも!」
 改はしっかりとラウゼンの背後にしっかり待機していた。
 シルバが手を振り下ろし、氷の刃が二人に襲いかかる。
「くおっ!」
 ラウゼンが再び木々の壁を作り上げるが先ほどよりも衝撃が大きいのを物語っていた。
「…チェックメイト」
 ラウゼンの後ろに、シルバは迷うことなく片手に握り締めていた氷の刃をラウゼンの背中に突き刺していた。
「ぐおぁ!」
 ラウゼンは力無くその場に崩れ落ちる。
「おい!しっかりしろ!」
 目の前にシルバがいるのもそっちのけで改はラウゼンを支えた。
「脆いな…こうも差が出てしまうとはね、あの石を使えばどれだけの力を得られることだろう。はあぁ」
 シルバは己の力に恍惚の吐息を漏らす。
「おい、起きろ!頼むから…」
 改は焦っていた。自分だけで勝てるわけが無い。そもそもまだ勝機も見出していないのに…
「さて坊や‥どうやって死にたい?」
 もはや時間が無かった。
「クソ!死んでたまるか!俺は生き延びてやる!」
 改は咄嗟にピカに手を伸ばし、次の瞬間には迷う間も無く投げつけていた。
そしてサングラスを付けて、さっき別れた時に香澄から受け取ったサングラスをラウゼンに掛ける。
 威力はすでに実証済みだ。これならいくらなんでも耐えられまい。
 シルバはピカを知らなかった。投げられたピカに大した警戒もせず、そのまま落ちるのを放った。
 辺りは激しい閃光に包まれた。悪夢の光、見た者に永遠の眠りを与える非情の光。
 ドーーーン!
改は光と衝撃の中、少しでも離れようとラウゼンの腕を肩に回しどことなく歩き出した。
………暫くが経って、光は収まり。周囲の光景は何事も無かったかのように視界を取り戻そうとしていた。改が視力を取り戻したその最初に見たものは、絶望だった。
「ふむ、なかなかの威力だ…ちょっと焦ったぞ」
 改の目の前には依然として無傷のシルバが立っていた。シルバからは言葉とは裏腹に大したダメージは感じられなかった。
「しぶとい奴め、しつこい女はもてないぞ!」
 改は苦し紛れに残り少ないナイフを投げる。
「あきらめの悪い男ももてないわよ」
 シルバにはもはや恐れるものは無いといった余裕をもってナイフを弾き改に近づく。
「ははは、参ったな。じゃぁこれで最後にしよう!」
 シルバが油断して近づくのぎりぎりまで引き付け、改は電磁仕掛けの最後のナイフを直接シルバに突き刺し、そしてスイッチを入れた。
「一緒に料理されようや!」
 電磁波はシルバと改の体を痛めつける。
「ま、魔女でも・・体は生身の肉体と何ら変わらないんだったよ、な!」
「貴様、捨て身で・・ググァアア!」
シルバが言葉にならない言葉を発する。
「へ、ざまぁみろ…」
 改は一言そういうとその場に崩れ落ちた。




[第六章・第四節] | [第六章・第六節]