「My Owner is Excellent!!」
著者:創作集団NoNames



 第二章

    −1−

「はぁ〜」
 カシスは今日五度目のため息を吐いた。
 今、カシスは自分の部屋で机に向かっている。
 目の前には、日ごろ学校で使っている教科書である。
 今日は休日なのだが、シャルに出かけるなと言われたためこうして一人で勉強をしているのだ。
 しかし、もともと勉強というものがあまり好きではないカシスが、家で自習を嬉々としてするはずもなく、
「はぁ〜」
 とため息がこぼれていく。
 カシスが読んでいるのは歴史の教科書。
 自習とはいうものの、パラパラとめくっているだけなので眺めているだけ、といったほうが正しいかもしれない。
「歴史がある国に暮らすってのも考えものだよね」
 歴史が長ければ、必然的に覚えるものも増えてくる。
「何か面白いこと書いてないかな〜」
 たまたま開いたそのページには、歴史の始まりのことが書かれていた。
 歴史といっても、現在よりもはるか昔、神々の時代のことから書いてある。
 この国では、聖書も重要な歴史の教科書なのだ。
「神様かぁ。そういえば、カンパリが神力っていうのは、神様がくれたものだって言ってたな………」
 昨日の事を思い出し、少し興味がわいてきた。
 丸まっていた背筋を伸ばし、「眺める」から「読む」に意識を切り替える。

――――この世界は、三兄弟の神が創り出したものである。
まず最初に、三人の中で長男にあたる神が大地と太陽を創りだした。
次に、次男が海と空を創った。
そして、一番下の女神は月と星を創った。
その後、三人は今度は生物を造り始めた。
植物をはじめ、魚や鳥、大小さまざまな動物―――

 カシスが通う学校の近くの教会には、この様子を表しているとされる大きな一枚の絵が飾られている。が、あまり信心深くないカシスは、実物を見たことはない。
「ふ〜ん。この辺りは授業でやらなかったから、知らなかったな」
 呟きながらページをめくる。

―――たくさんの生物を造り終え、ひとつの世界は完成した。
世界は平穏に包まれ、三人の神はそれを見守っていた。
ある時、長男の神が数人の人間を造った。
その人間は皆、とても美しく、そして賢かった。
それを見た末の女神も、真似をして人間を造り始めた。
どの人間も、取り立てて長所はなかったが、女神はたくさんの人間が造れた。
次男の神も、人間を造ってみたが、うまくいかなかった。
ある程度の数は造れたが、どの人間も醜かったり、凶暴だった。
何度繰り返しても、次男は良い人間を造ることはできなかった。
そのことに激怒した次男は、自らが創った海で全ての生物を沈めてしまおうとした。
当然、ほかの二人はそれに反対した。
そして、争いが起こった―――

 少し興奮気味に、ページをめくる。
「あれ?」
 カシスが困惑の声を上げる。
 次のページでは、すでに神同士の争いは終わっていた。
 間違えて二枚めくってしまったのかと思い、確認してみたが、間違えているわけではなかった。
「載ってないなら仕方ないか」
 気を取り直して、続きを読み始めた。
とは言うものの、次男の神は歴史から姿を消していて、女神の名もその後、すぐに見なくなっていた。
残った人間たちは次第に数が増え、三種類の人間の血は混ざっていった。
だが、至極まれに先祖と同じ能力を持つ者がいた。
神に祝福されているその者は、常人には不可能な事が容易くできたという。
「これが神力ってやつかな」
 そう言われてみれば、歴史上の人物の中にはとんでもない大出世をした農民出身の王や、圧倒的不利な状況を何度も乗り越えた将軍などがいる。
「さすがに運が良いだけじゃ、こんなふうにはならないもんね」
 明記されているわけではないが、神力を持っているとしか思えない人物は歴史の中に多々存在する。
 しかも、そんな人物が現れるのは大抵が乱世の中、世の中が混乱と貧困に満ちているときである。
 人々のメシアになる。そんなカンパリの言葉が思い出される。
「こうしてみると歴史もなかなか面白いかも」
 カシスは普段では絶対にしないような感想を口にした。
 シャルがこの場にいたら、思わず熱でもあるかと心配するほどに珍しい言葉である。
「さて、目も疲れてきたし、そろそろ何か別なことでもしようかな」
 パタン、と教科書を閉じてカシスは立ち上がった。




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