「Wacky Pirates!!」
著者:創作集団NoNames



  第二章

   −1−

 三人の人影は街中を駆け足で、港の方に向かっている。
「これからどこに行こうとしているんだ?」
 ヘクトは走りながらも息を乱すことなく先頭を走るトメに聞く。
「…21区画の・・高級住宅街」
 (21区画、ここから10キロ離れた昔はみなとみらい21と呼ばれ有名なビルを筆頭に若者のデートスポットや会社が多く進展していたところだったが、現在は埋め立てが進み景観は変わり、ここからでは海が見えなくなり。なんだかんだ結果的には住宅が多く建てられ金持ちの集う高級住宅街に変わっている。)
トメは息を乱しながら途切れ途切れ話した。
「そんな所に行って何があるんだよ」
「……」
「まぁ、詳しいことは後にして今はとにかくそこに向かいましょう。そこまでは見つかったら厄介ですから」
 苦しそうなトメに変わってアルムもまた平然とした口調で答える。
「……」
 能力者は各々の能力を使いこなすことは結果的にいろんなことに応用を利かすことが出来るようになる。例えばヘクトは自分の呼吸器系を強化し、アルムは体を温めることで運動するのに最適な体調に持ってきている。最もアルムに関しては元から体力があるのだが…
 もっとも常人であるトメは能力者に比べれば苦しい所だが、そのペースは常人と言うにはほど遠い速さなのだが。
 三人はやがて21区画の住宅街に到着し、ゆっくりと歩き始めた。
「すーはー,・・すーはー」
 トメは深呼吸して息を整えている。
「ここまでくれば軍人も探しには来ないだろう」
 閑静で静かな住宅が地、最も静かなのは深夜に入っているからなのかもしれない。
「でここに来た理由は何なんです?」
 ヘクトもアルムも軽く息を乱したくらいでやはり平然と話し始めた。
「この近くに我々のアジトへの通路があるんですよ」
「ふーん、なんかありきたりな展開だな。でも、こんなところのどこにそんなの作ったんだ?」
 辺りは高級住宅ばかり、ちょっと遠めに昔の名残で高層ビルが一棟寂しそうに建っている。
「んー、まぁもうちょっとすれば分かるから、それより話を変えよう。君はどこの軍人だったんだい?」
「初めはヨーロッパの能力開発研究所だった、そこで被験体として入った」
 ヘクトは意味深なことをさらりと言った。
「被験体!つまり君は軍人としてではなくモルモットとして?」
 アルムは予想外の言葉に驚いた。
「こう見えても天然の魔術師だったんだ、当時は感情でしか使うことは出来なかったけどね研究所に入っていろんな薬の実験体になって少しづつだけど能力の幅が広がった」
「君は被験体から昇進した…」
 アルムは暗い顔をしながら言う。
「そう、数少ない『もどきの成功作品』だった、初めから一等兵扱い、そこから軍備の知識、武装、戦闘マニュアルを叩き込まれて…でも日本の政府組織に売られた」
「よほどヨーロッパも経済的に必死だったんだな」
 ヨーロッパは先の対戦で小国に分裂し経済力を失った。資金調達には研究素材を売る他なかったようだ。
「日本の政府組織は他国に比べて『魔術師』に関した研究は遅れてたから、良い金にはなったと思うけどね。そして日本に来てからが大変だった…」
 ヘクトは険しい顔をして続ける。
「・・着任した早々俺は特殊部隊に配属された、『魔術師』だけで構成された部隊。そこにはいろんな国からかき集めた『本物の魔術師』が十数人いたんだ…」
「それで、与えられた任務は何だったんだ?」
「任務とは言い難かったよ、ようはより優れた『魔術師』だけが残れば良いサバイバルゲームだったんだ。場所は森林の生い茂った演習場、もちろん『もどき』が生き残れるような生易しい環境じゃなかったよ…」
 ヘクトは思い出せば再び恐怖が甦るのがその身に感じていた。
「常に逃げ続け少しずつ人の気配が減っていくのが能力で分かった。さすがにおかしくなりそうだったよ。一人の『魔術師』によって俺以外全員殺されたんだから…」
「でも君は生き残っている…」
 ヘクトたちは住宅街の大通りを話しながら高層ビルに向かって歩いている。
「ああ、実力じゃないけど結果的には俺は生き残りそいつは死んだよ。…それより、もしかして『らんどまーく』目指しているのか?」
 ヘクトはあまりこれ以上は話したくないと思った。ここまで話をしてしまった事後悔した。だから話を切り替えようとした。
「そうよ、あの地下に私たちのパイプラインがあるの、それより、どうやってそいつを倒したのよ?あんたみたいな『もどき』がどうやって?」
 息をすっかり整えたトメがヘクトの気も知らず聞いてくる。
「…別に話さなきゃならないことじゃないだろ?俺もこれについてはあまり話したくない…」
 ヘクトはそう言うと黙々と歩くようになった。それに従い三人の会話は無くなりただ静かなままビルを目指すようになった。
「……」
 少しずつだがビルに近づいているが、近づけば近づくほどに空気が重くなるようにトメには感じられた。
「……もうやだ、やっぱり気になる…」
 トメはそう愚痴を呟く。
「しょうがないじゃないですよ。本人が話したくないのだから…」
 アルムが耳打ちをするようにトメに言う。内心気まずくしたのは自分のせいだと感じてはいた。
「…もうすぐ着くから、そしたらゆっくりいろんな話でもしよう。きっと仲間たちも歓迎してくれるよ」
 アルムはとりあえず適当なことを言って空気を和らげようと試みるが反応はトメからも良くない。
「ありがとう、軍の話以外なら構わないから何か話そう。このままはやっぱり居苦しいよね」
 ヘクトはアルムの気持ちを察して答えた。
「じゃあ今度は君が私たちに質問してくれ」
 アルムはほっとしながら返す。
「・・この箱が元々あんたらの物と言ってたけど、どうしてこれがキリバールから俺に渡ってきたんだ?」
「それは私のひいおじいちゃんの残した私への遺産よ。2週間ほど前にひいおじいちゃんは121歳という誉ある長寿を全うして亡くなったわ、それでそれが私に回ってきたのに、軍の奴らに勝手に押収されて、目立たないようにあんたたちの会社を使って本部に送られそうになったところをあんたらが横領してたってわけ」
 トメはヘクトを睨むように見る。
「横領って、俺はキリバールから買い取っただけだよ。そ、そんな横領なんて人聞きの悪い・・」
 ヘクトはあせりながら弁明をする。
「それでも結果的には横領の仲間として追われる身だけどね」
 トメはヘクトの焦りようを見て笑った。
「それで中身はまだ開けてなかったわけだ」
「そうよだから必死で取りに来たんじゃない。結果的に開けることの出来る人間が一緒に手に入ってラッキーだったわ」
 トメの顔は今後の展開を希望を持っているのか、嬉しそうだ。
「でも俺が箱を開けたらお払い箱なんて事は無いよな…」
 ヘクトには一抹の不安が過ぎる。
「……」
 トメは黙る。
「なんだよその沈黙は」
「大丈夫ですよ私が責任を持ちますから、なにせ人手が足りないのが現状なんですから」
 黙るトメに変わりアルムが話した。
「…そうだよアルム・・さん?の仲間たちって何人いるんです?」
 ヘクトの不安は解消されることはないが、とりあえず聞いてみる。
「そうだね後援者は200人くらい、でも実質の仲間はトメと私を含めて5人だね」
 思い出すまでも無い人数にアルムはさらりと答えた。
「あんたも入れば6人よ」
 間にトメが告げる。
「で主な行動は何?」
『日本人の保護』
 ヘクトの質問に対して二人の言葉は一致した。
「主に純血種の日本人を支援している」
「私もその一人よ」
 別に聞いてない。
「でもなんで、それなら政府の政策で保護法が引かれているじゃないか?なんで保護する必要があるの?」
 そう先進国の高齢化社会と少子化、2269〜2284に起きた『魔法対戦』に伴い人口が激減2292年に施工された国際血統保護法。一種(絶滅危惧種)二種(準絶滅危惧種)に別れ、純血種の日本人は一種に定められている。
「そうもちろん保護されている。でも日本人は違うんだ。近年日本人の多くは『もどき』にも劣るが先天的な能力者が多いことが発見されたんだ」
「そんな話は聞いたことが無い」
 ヘクトは信じられないと言った感じで手を横に振る。
「これは佐官クラスの人間が特殊部隊を指揮して行っているから下の者には知られてなかったんだよ」
「まあ、それによる日本人の政治への再介入を恐れた軍つまり政府認可組織が保護法の名のもとに捕獲して研究対象や奴隷、下手すれば処刑といった扱いを受けている」
「全く、卑怯なやり方よね。怖いものは早めに手を打とうなんて弱者の考えそうなことね」
 トメが後ろから話している二人の間に割ってはいる。
「そこで、私たちが本当の保護つまり軍への抵抗組織『影』として動いている。結果的には仲間のほとんどが日本人ということになる」
「ふーん、それでこの箱とは関係があるの?」
 ヘクトは大体のことは半信半疑のままとりあえず話を進める。
「あるはず・・」
 アルムは返答に困った。
「私のひいおじいさんはこの『影』の設立者でもあるの、そのひいおじいさんが残したものだからきっと何か意味があるはずよ」
 反してトメは自身満々に答えた。その返答にヘクトはトメが曾祖父のことをよほど信頼していると感じた。
「さあ、そんなこんな話しているうちに目的地に着きましたよ」
 アルムが立ち止まる。それを見てヘクトとトメも立ち止まった。
 ビルの真下まで来た。アルムは回りに人気が無いか辺りを警戒している。
「一応立ち入り禁止なんで見つかると厄介でしてね、・・大丈夫そうですね。行きましょう」
 アルムが駆け足でビルの中に入っていく。二人もそれに続いた。
 ビルの中は既に使われていないせいか、少しカビ臭くなっている。このビルは100年程前に国の保存建築物として指名され使われなくなった現在でも絶滅危惧種同様政府に保護されている。
「ここの建物には昔に非常用の地下施設が実は計画されてたんです。たしかテロ対策とか言われてましたね」
そう言ってアルムは柱の一つを念入りに調べている。
「確かこの辺に!」
 壁の一部がスイッチのようにカチリと鳴ると、次の瞬間アルムの足元に地面から取ってのようなものが出てきた。
 アルムはその取っ手を握り横に滑らせる。と床がスライドし地下に向かう階段が出てきた。
「こういう話のありきたりって感じだね…」
「何か言ったかい?」
 ヘクトの独り言はアルムには聞こえていた。
「さ、さっさと行きましょう」
 トメが一番乗りで暗い階段を降り始めた。次いでヘクト、最後にアルムの順で階段を下りていく。
 照明は足元を照らす常夜灯の光以外なにもない。が階段を降りるだけならおれで十分だった。
 30段ほど下ると広いところに出た。明かりは変わらず足元の壁に着いた常夜灯のみ。だがそのおかげで部屋の大きさ、そして入り組んでいるのが認知できる。
「ここからは逸れないように気をつけなさいよ」
 トメがヘクトを気遣う。もしかすると初めてのことかもしれない。
「ああ」
 ヘクトはこの暗がりにうっすらと移る影について行った。

 10分ほどだろうか、ヘクトはすでに道など憶えていなかった。
 やがてトメと思われる影が壁の前で立ち止まる。
そして自分の腰の高さぐらいの所の壁を手探りで調べる。
「よっと」
 トメの発した言葉と同時に壁が動いた。これもさっきと同じでスライド式のようだ。
壁の向こうからは淡い薄明かりが射し込む。暗がりから来ても耐えられる明るさ。
「ここから先が私たちのアジトよ」
 壁の向こうにはダンボールが大量に詰まれているのが見える。食料関係のようである。
「ただいまー」
 トメが最初に入り一言言う。
「遅かったなー、てこずったか?」
 奥から若い男の低い声が聞こえてきたが、姿は見えない。
「ちょっとしたもめごとがあってね、でも無事に箱も手に入ったし、収穫もあったわ」
 トメは声の主にどこを見るでもなく答える。
「それはよかった。皆すでに下で眠っているよ、、明日の朝にはミーティングがあるから寝坊はしないように…それでは細かいことは明日に回すとして、私も寝ますね」
 男の声には感情のようなものが感じられない平坦な物言いだった。そして声は聞こえなくなった。
「お休み・・、私たちも早く寝ましょう、アルムは彼に部屋を与えてちょうだい…その箱は今晩だけはあなたに預けておくわ、それじゃ、お休み」
 トメは言いたいだけ言って薄明かりの中奥へと進み左側の階段を下りていった。
「お休みなさい・・それじゃちょうど空き部屋があるはずだからそこへ案内しますね」
 アルムはヘクトにそう言うとトメが行った左の階段とは逆の右の階段を降り始めた。
「明日の朝にはミーティングがあるのでつらいと思いますが、起こしに来るので、それまでは休んでください。下の階の廊下を歩きながら話す。
 廊下の突き当たりから二番目の部屋にヘクトは通された。
「それじゃ、少しの時間だけどお休み」
「お休みなさい」
 最後はごく当たり前の挨拶を交わして、ヘクトは部屋に残された。
 部屋はこまめに掃除されているためかなかなか奇麗になっている。もっともベッドと木の机に丸椅子しかに簡素な部屋なのだが。
「だれが掃除してんだろう…」
ヘクトは口にはしたが考えることはしなかった。そのままベッドの上に倒れるように身をまかせ、疲れから滲み出る眠気にその身をゆだねた。




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