「愛の劇場」
著者:雨守



「義子もうやめろよ!さあ、その包丁…俺に渡して…」
「…お黙り!」
「待って、義子御嬢様。俊夫さんは何も悪くないの!悪いのは私…」
「ええい、お黙り!この泥棒猫!あんたさえ…、あんたさえいなければ…」
「義子それは違う!典子は悪くない。先に彼女を愛してしまったのは…この俺だ!」
「違うわ!私が先に俊夫さんを…。結ばれてはいけない運命だととわかっていながら…」
「…黙れって言ってるのがわからないの!?」
「よ、義子…」
「御嬢様…」
「典子なんかに私の男を…?絶対にゆるさない…」
「義子!」
「御嬢様、わかって!私たちの愛は本物なの」
「へえ、そう…。なら二人一緒に逝かせてあげる!」
「よ、よせ!やめるんだ!」
「お、御嬢様…」
「死ねえぇぇぇぇ!!」
「き…、きゃああああ!!!!」
「やめろぉぉぉ、義子!!」
 ドスッ。
「あ…」
「お、御嬢様…」
「何これ…私の血…。私…死・ぬ・の…」
 バタ。
「俺は何を…」
「俺が…義子を…刺し…た?」
「俊夫さん!」
「俺は、俺は…」
「俊夫さん、…正当防衛よ!」
「違う。俺が…義子を殺した…」
「俊夫さん!」
「義子から…包丁を奪って…、それで…義子を…」
「俊夫さん、もうやめてぇぇぇ!!!」
「俺は…」
「俊夫さん…、逃げましょう…」
「…え?」
「二人で逃げましょう!」



『はい、カットー!!』
『は〜い、シーン6OKです』


「いやぁ、今の良かったよ〜」
「うんうん、特に義子の台詞なんかさ、憎しみが思い切りこもっててもう最高!」
「あの、監督…」
「ん?」
「一つよろしいでしょうか…?」
「ん?なんだい?何でも言ってごらん?」
「その…やっぱり一人三役は無理です」




[終]