「坂上君のカバン」
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)





「あれー…………」
「………おい」
「おっかしいなぁ………確かいつもこの辺に」
「おい」
「あ………もしかしてこっちに………あ、あった」
「おい!」
「わあっ」
「お前、俺のカバン漁って何してんだ」
「え? ああ、お昼だし、ご飯を食べようと」
「なんでお前の昼メシが俺のカバンの中に入ってんだよ」
「違うよ、僕の昼ご飯が入ってるわけないじゃん」
「あ………?」
「昼ご飯忘れたから、坂上の食べようと思いたたたたたた」
「失せろ、このハイエナ」
「割れるッ! 頭が割れちまうゥッ!」
「この際だ、派手に砕け散れ………」
「ぎゃあああああっ」

−−−

「………まったくもう、君は僕の頭を何だと思ってんだい。これは人類の至宝だよ」
「少なくとも俺の昼飯以上の価値はないな」
「そんなあ………友人として見損なったぞ、坂上!」
「とかいいつつ、俺の弁当に手を出すな」
「あうちッ」
「育ち盛りの高校生の昼飯を狙う奴はみんな敵………よほど潰されたいようだな、貴様」
「あの、初めてだから、優しくしてね………」
「………間宮」
「あい?」
「ノコギリは、どこにいけばある?」
「僕に何する気!? てか本人に聞かないで!」
「………冗談はいいから、早く購買行けよ。目ぼしいのがなくなるぞ」
「ねぇ、坂上」
「あ?」
「男として気前良く分け与えるくらいの度量はないものかい?」
「早く行け。俺は男と弁当を分け合う趣味はない」
「うぅ、ひどいや………昇降口の掲示板に携帯の電話番号張ってやるー」
「何気にえげつねえことするな、お前………」

「でんちがきーれたー、じゅうでーんきー………っと、あれー、ないな」
「君島」
「あー、坂上。あのさぁ、お前カバンに入れといた携帯の充電器知らねいいいいい!?」
「あれはお前のか、このボンクラァ!」
「割れるッ! 頭が割れちまうゥッ!」
「この際だ、派手に消し飛べ………」
「ぎゃあああああっ」

−−−

「間宮と言いテメエといい、お前ら人のカバンを何だと思ってんだ………」
「四次元ポケット」
「お前………分かってて悪用するな」
「悪用じゃないよー、立派な有効活用じゃないか」
「こうなった原因も分かってねえんだから、変なもん入れておかしくなったらどうすんだ」
「変なもんって………ナマモノじゃないんだからいいじゃないか」
「ナマモノだったら立派なイジメだ」
「そんな怒るなよ。夢があっていいじゃん」
「勝手にモノをいれんな! たまに俺が把握してないものが入ってんだよ!」
「まあ、自分が持ちたくないものを入れたくなっちゃうよね、仕方ない」
「金輪際入れんな、まったく」
「それに最近流行ってんだよね、坂上のカバンの中トトカルチョ」
「イジメじゃねえか! 仮に盗まれたものが入ってたらどうすんだよ」
「ああ、きっと大丈夫だよ」
「何が?」
「物を失くして坂上のカバンから出てきたら、きっとみんな、坂上に感謝するよ」
「意味がわかんねえよ」
「それより、充電器は今、入ってねえの?」
「あれなら、学校受付の三鷹さんのとこに預けた。俺のじゃないからな」
「三鷹さんのとこ? やった!」
「おい、お前、三鷹さんを困らせるんじゃねえよ。本来落し物展示するためのスペースをわざわざ割いてもらってるんだからな」
「だって、あんな美人いないぜ。あぁ、あの豊満な胸に埋もれてみたい………」
「………」
「あれはあの年齢だからこそにじみ出る色気だよなぁ………なあ、坂上?」
「分かったから、そういう話はここでするな。とりあえず行って来い」
「はーい………イィヤッホー! 行ってきまーす」
「………分かりやすいくらいの馬鹿で良かった」

「むむー、お財布チェーック。これじゃ、帰りはゲーセン寄れないねー」
「おい………お前は人の財布勝手にあけて見やがって、なにやってんだ水原」
「え、貧乏と噂の坂上君のお財布中身チェックゥって、いたいッ、食い込むッ! 指が食い込むゥッ!」
「昼時の教室で、誤解されるような言葉を叫ぶなぁッ!」
「いたいいたいいたあいぃ!」

−−−

「いったー………女の子だって容赦なしだね、坂上君は………」
「手加減はしたが、そもそもやるなよ」
「坂上君優しいから、たまにして欲しくなる………」
「水原………今のは聞かなかったことにしておいてやるよ」
「ありがとう、優しいね」
「で、お前。なんで俺の財布を」
「えっとね、今日、お昼ご飯代忘れちゃって」
「なんだ、貸してくれと言えば素直に貸したのに」
「ううん、坂上君の財布に仕込んどいた緊急予備費を使おうかと………」
「自分のものに仕込んどけ!」
「私、良く物失くすから、物持ちがいい人に仕込んでおけば大丈夫かな、って」
「既にその思考回路がどうかしてるぞ。お前」
「うん、これこれ、あった。千円」
「て、え、お前、なんでそんなとこ………てか俺でも知らなかったぞ、そこ」
「秘密の場所」
「………次やったら、容赦なく使うからな」
「また、秘密の場所を作るからいいもん」
「それをやめろよ………」
「だってそれじゃ………接点なくなる」
「は?」
「あ、学食行かなきゃ。それじゃ、またね」
「ああ………じゃあな」

「………あ、坂上くん。残っていましたか。ちょうどよかった」
「左ノ川先生?」
「この前の小テスト、採点済のを君のカバンに入れたんですが、出してもらえませんか」
「お前もかぁぁぁ!」
「ぎゃあああああ!」

−−−

「どうしました、坂上くん。いつもの攻撃力には程遠いですね」
「アホが多すぎて………握力がもう、ないです」
「困りましたね。坂上君のアイアンクローは眠気覚ましにちょうどいいのです」
「先生………眠いならコーヒーを飲んでください」
「もちろん、冗談ですよ」
「これじゃ先生に暴力を振るう不良生徒じゃないですか。まったくもう………えーと」
「あれ、何を見ているんですか?」
「小テストだったら、理科室の教卓下にある海苔の缶の中に入ってますよ」
「はぁー、なるほど………いちいち書いてるんですか。マメですねぇ」
「ったく、余計な仕事増やさないでくださいよ」
「いやー、反応が面白そうだなあって前から思ってましてー」
「思っててもやらないでください」
「坂上くんは、愛されてますねぇ」
「教育者としてこの陰惨なイジメをどうにかしようとは思わないんですか?」
「まあ、被害とか、これといって聞きませんしねえ」
「俺の訴えを聞き流して実害なしと来ましたか」
「まあ、坂上君のモノが何か無くなったとかなら、相談に乗りますよ」
「先生、俺のカバンの中におけるプライバシーが無くなりました」
「それはあきらめてください。だってそれは、坂上君のカバンなのですから」
「ちょ、なんですかそれ。俺のカバンの何を知って、ってまさか!」
「それではまた、六時間目に会いましょう〜、アデュー」
「ちょ、アデューじゃな………って………足はや……」

「ただいまー。あれ、弁当食べるの待っててくれたん? あれ? 君島は?」
「アイツは落し物を探して夢を見に行った」
「何だいそれ………」

−−−

「………ん?」
「どったん?」
「弁当が2つある」
「え、さっき見たときは1つしかなかったのに」
「…………」
「ははぁん………なんだ、照れずにはじめから俺の分があるって言ってくれれば」
「税込み820円、てところか」
「そんな小さいのに異常に高いよ!」
「日本国内の人件費はバカにならないとニュースで言っていた」
「人件費なの!」
「と、冗談はさておき………そろそろか」
「そろそろって、なにが?」
「あ、いた。兄さん兄さん」
「あれ、真由子ちゃん?」
「あ、こんにちは。間宮さん」
「こんにちはー、今日もかわいいね」
「そういう会話はこの兄を通してからにしてもらおうか、ハイエナ間宮よ」
「あれ、お兄様の学友として挨拶もできないのっ? てか顔こわっ」
「間宮」
「あい?」
「気持ち悪いからどっか行ってろ」
「ひどいよ!」
「あの………兄さん、もしかしてそっちに」
「………これだろ?」
「あ、やっぱり兄さんの方に行っちゃってたんだ、良かったー」
「ついでに、これとこれもお前のだろ」
「あ、それも探してた」
「俺の数学のノート、お前のほうに行ってないか?」
「それは来てないけど、マニキュアと肉じゃがの材料書いたメモが来てたよ?」
「………俺のじゃないからな」
「言わなくても分かってるよ、兄さん。ついに私にもお姉さんが出来るんだね?」
「目を輝かせるな。事実無根の濡れ衣だ」
「なんだ、残念」
「とりあえず、後で返しといてくれ」
「了解。でも良かったー、家に忘れてなくて。今月お小遣い厳しいんだ」
「気をつけろと言ったろう。ただでさえカバンの中が繋がって混ざりやすいんだから」
「うん、ありがとう。じゃあね」
「ああ」


「えと………坂上、さん?」
「なんだ」
「なに………真由子ちゃんも?」
「四次元ポケットだ」




[終]