「黄違い」
著者:ポリープ袴田



 都内、閑としたアパート、足音響き耳につく。湿った空気につつまれながら、今日も日は照っている。
 足音の主は谷本君である。最近、彼が足繁く来訪するのは最近の私に原因があろう。私が名前を笹木高太郎から笹木黄太郎へ改名したときの彼の驚きようといったら、それはすごかった。読み方は変わらないと言ったら、
「馬鹿野郎!親から貰った名前を粗末にすんじゃねえ!」
 と、眼を広げて怒っていた。どうやら少し前から私が周囲のものを黄色にしていく事に対し、疑問と何らかの不安を感じていたようである。今日は彼に何をどやされるだろうか。
「相変わらず落ち着かない部屋だなあ、黄色ばっかり、また増えたんじゃないか、ん?何で某教育番組のキャラクターのマッキ―くんの人形があるんだよ!」
「黄色いからな」
「よくもまあ、こんなマニアックなものまで集めるようになったもんだ」
「まあな」
「まあな、じゃないだろ!黄色いシャツに黄色いチノパン、黄色い壁紙、黄色いカーテン、黄色い髪!一体どうしちゃったんだよ」
「……」
「一回、頭の中診てもらったらどうだ?ほら、フロイトやらユングだかの…」
「フロイトはモルヒネで患者を中毒死させてるし、ユングは錬金術にはまった神秘主義者だろ、しまいにはUFOが降りてきて人類を滅ぼすなんて騒いでた奴だ。そんな奴らの考えたのを誰が信用するか」
「んーそれじゃあ、ロジャースなんかどうだ?来断者中心療法。患者の話をよく聴いてくれるそうじゃないか」
「あれは問題提起を自分で出来て、自己解決できる能力のある人間にしか効かない。ロジャースはオツムの良い大学の学生でしか実験してないんだよ。能力の高い人間を多く診てきた反面、それ以外の人間を診てない不完全な療法といえるな」
「じゃあワトソン。ワトソンの条件付けによる強化。お前の黄色への執着心をなくしてもらえる様、条件付けてもらえ」
「プログラムされるのは好かん」
「もう知らん。勝手にしろ」
 いつものように谷本君は怒って帰ってしまった。しかし、それでも懲りずにまたやってくるのが彼の好いところである。
 一週間後、谷本君がまた訪ねてきて内観療法というのを勧めてくれた。
 なんでもお寺の住職が考案したもので、一週間を一つの部屋の中で過ごし、その中で自分の過去から現在までをじっくりと思い出し、考察していくも のらしい。いまでは病院でも行われているらしいが、折角であるから都下にあるお寺でその治療を受けることにした。
 治療を受けに行くその前の晩、私は死んだ。死因はよく判っていない。
何かの縁だからと谷本君が私の両親に勧めて、行くはずだったお寺に葬式をあげてもらうことになった。戒名は黄色違空居士という名を頂戴した。
改名したばかりなのに残念である。




[終]