338 "真っ白な切符"



 がたんごとん がたたん がたん

 窓枠についた肘から伝わる 線路の継ぎ目


 溶けかけの冷凍みかんを むいて一口食べれば

 開け放った窓から 入り込む初夏


 快適すぎれば過ぎるほど

  飽きるのが惜しくなり

 快適すぎれば過ぎるほど

  理由をつけるのが怖くなり


 どこまでも行ける 魔法の切符

 それは その旅に 終わりはないということ

 なんにでもなれる 魔法の切符

 でもそれは なんにもならないという選択肢を 持てないこと

 そもそも人は永遠に耐えうる心を 持ちえていないのだから



 どんな切符にも

 いつかは 自分で書き込まなければならない

 終わりの駅も 始まりの駅も


 自分がはるか昔 この列車に乗った 理由を

  心の隅に 思い浮かべながら