「蛍雪戯画三丁目」




  駅前の踊り場で、他人のワルツを見ながら、ふと思い、
 友人拾い、タクシー拾い、港まで、
 海も見ずに、コンテナ見つめ、
 互いに暗い話をしては笑う、そんな夕刻、

  二人を降ろしたタクシーのラジオからは
 どこかの長が、ニュータウン建設の必要性を説いている
 人々を郊外に誘い出し、空洞化した都市部には、すかさず低賃金労働者が入ってくる、
 そんなことをおくびに出さず、説いている

  運転手は思わず苦笑い、少し早い帰路に着く


  母と共に、父の帰宅を待つ少年は本を読んでいる。
 或る生き物たちが平和に暮らす島に、思わぬ侵略者がやってきて
 戦争経験の無い島の生き物たちは 
 武器と呼ぶにはあまりにも滑稽な代物で立ち向う、
 えてして島の生き物は食べられていく
 そんな話を少年は読み、笑い、無邪気な笑顔を母に見せる

 ここは蛍雪戯画三丁目

 或る老人の、象牙の門を通ってきた夢の三丁目