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体中に軽い痛みが走る。
俺は今どこにいるんだ?箱根。
どうしてこんなことになったんだ?ピカ使って空飛んで…そして落ちた。
皆は!
改は虚ろに考え事をしていたが、二人のことを思い出すと途端に目を覚ました。
「ここは…箱根のどこだ?それよりも二人は?」
改はすぐさま辺りを見回したが何も無い。否、自分が木のてっぺんに見事に乗っかるように落ちていたために自分の目線が開けていただけだった。
「えっとこれは落ちたら痛い…よなって!」
バキ!
下を覗き込んだ瞬間木が悲鳴を立てて折れた。改は選択の余地無く重力に引かれていった。
「最悪だ…」
ガサガサガサ!
改は落ちる中、木々を掠めながら呟いた。
ダン!
改は何とか脚からの着地に成功したが、痛い!
一人静かにその場にうずくまり、痛いのを堪えた。
………
「改さん?大丈夫ですか?」
うずくまり悶えている改の後ろから聞き覚えのある声が届く。
「ミル!」
その声に反応して振り返る改の顔は涙目だった。
それが再開の喜びではないのが誰の目にも明らかだった。
「全く、どこであんたは昼寝してたのよ?」
ミルのさらに後ろから香澄が口を出す。二人は落ちてくる瞬間を目の前で見ていた。
「二人とも無事か!」
「あんた以外はね」
香澄が無情なほどに冷たく応える。
「改さん、歩けますか?」
対照的にミルが心配そうに見つめてくる。
「うわっととと」
改は近づいてくるミルの顔を見て思わず仰け反り、脚の踏ん張りが利かずにそのまま後ろにこけた。
「改さん!?」
「重症だね。いろんな意味で…」
香澄は呆れたように後ろを向いた。
「本当だな、ははは」
改自身自分の反応に困っていた。
「少し休めば動けるからそっとしといてやりな」
香澄が後ろを向いたまま言う。それを聞いてほっとしたのかミルも改から距離をおいてその場に座って改の回復を待つことにした。
足のしびれもやっと治まってきた。
「さて、そろそろ行こうか」
改がスタリと立ち上り屈伸運動をするのを見てミルも立ち上がる。
「それで元気になったのは分かったから。これからどこに向かうのよ」
香澄は準備運動している改に再び毒を吐く。
「………」
「考え無しかい」
香澄は呆れている。
「その心配は要らないよ」
『!』
香澄のさらに後ろから、男とも女ともとれる声が響いてきた。
「シフォリネイテか!」
改が二人をかばうように前に出て構える。
「おやおや、覚えてくれてたのかい?クロザトウくん」
森の陰りから大小の人影が姿を現した。
「いいかげんに漢字を覚える気にはならないのかい?」
改は緊張の中に自分を落ち着かせるためにもここで負けるわけにはいかなかった。
「言ってくれるねー、また黄泉の玄関まで送ってあげるよ」
「それはそれは随分高価な片道切符ですこと。後ろのデカブツも元気そうだね」
「…………」
「あいかわらず無口だね。それで今日の本題に入ろうか」
「そうだね、こっちも時間が惜しい。クランベリープリンセスを渡してくれればその少女の命だけで許してあげなくもない」
シフォリネイテはミルを指差して笑う。
ミルはその笑みを見て香澄の腕を掴みおびえた。
「悪いが交渉決裂。こっちはどっちも失う気は無い!」
次の瞬間、改はシフォリネイテに向かってナイフを投げつけた。
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