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翌日。
空は曇り、もうじき雨が降ろうとしていた。
「…シャル、今日はお祭りは途中で中止になるでしょうね」
カシスは部屋の中から空を覗いていた。
「そうですね、今日は昼過ぎから降る予定です」
シャルと呼ばれた男。本当の名前はシャルトリューズ、あの寒い夜明けの日にカシスの元に現れた男。
容姿は整い厚いメガネをかけ、髪は長く後ろで一まとめにされている。学者なのか語学書のようなものを読みながらカシスと会話している。
「シャルはそういうのは興味ないの? すごかったんだよ! 神力とかいう力を使う人がいてね。手から火を出したり、空飛んだりしてたのよ」
カシスはまるでついさっき見たように熱っぽく語る。
「私は静かに読書するほうが楽しいですから」
シャルは素っ気なく答える。
「……」
二人が出会ってから十年が経つがこの調子は未だに変わらないでいた。
もっともカシスも最初はシャルとあまり話そうとはしなかったが引っ越してここに来て、学校に通うようになって今の彼女に成長していた。
「今、神力と言いましたね?」
シャルは素っ気ない態度から一変して会話に興味を持ち始めた。
「ええ、火を出したり、空飛んだり」
カシスは意外そうな反応に驚いていた。
「それが本当なら嫌な予感がしますね…私はちょっと出かけてきますね。それと今日はあまり外を出歩かないようにしてください」
シャルは読んでいた語学書を閉じ、忙しげに何やら準備を始めた。
「いきなりどうしたの? それに出かけないほうが良いってどういうこと?」
カシスはシャルの行動に驚きいていた。
「外は出歩かないほうが良い、そのままの意味です。私は今日は帰らないかもしれませんが、心配はしないで結構ですので」
シャルは濃紺のローブを羽織り、いそいそと出て行った。
………
カシスは一人取り残され、家の中は急に静かになった。
「一体何なのよ…」
カンパリはなにやら数人の集まりと円陣を組んで話している。
『了解』
昨日の大道芸をやっていた人間のうちの3人が返事をした。
「俺とドランブイは直接乗り込み、行動を起こす」
「は〜い」
昨日まではペルノーと呼ばれたていた男。ドランブイ。腑抜けた返事をする。
「グラッパ。昨日はよくやってくれた」
「そりゃどうも」
グラッパは薄気味悪い笑みを浮かべ、へらへらと言う。
「お前はもう用済みだ。ご苦労だったな。安らかに眠ってくれ」
カンパリがそう言うと周りの者がグラッパの体を取り押さえる。
「! ど、どういうことです!」
グラッパはこの状況が理解できず、あたふたしていた。
「そのままの意味だよ。君は私たちにはもう必要ない。ドランブイ!」
「はいよ」
カンパリに言われてドランブイがグラッパの前に立ち、そして指をパチリと鳴らした。
次の瞬間、グラッパの足元から一瞬にして炎が立ち上り始めた。それに合わせて取り押さえていた者も即座に離れた。
「やめ、やめてくれ! そんな……話がチガ…」
グラッパの足元から生まれた炎は昨日の赤いものとは異なり紫色の面妖な色をしていた。
「……」
グラッパは一瞬にして物言わぬ灰の塊へとその姿を変えていた。
「さて、荷物も片付いたことだし、はじめようか」
『全ては我らが主のために!』
一同はそう言うと各自の持ち場へと去っていった。
これから戦争が始まる。そう、神は今日を持ってその立場を譲らなければならない。我らが主、アンゴスチュラが世界を支配する。カンパリはそう決意を固めて動き出した。
「…カシス…すまない」
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