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「貴様、何をするつもりだ」
「私の役目はカシスを守ること。それが司教様のお言葉」
いつもは冷静なシャルが、熱く言った。
「あなたに渡すくらいなら私が……」
シャルはこう言うが、先ほどまでのシャルとの違いにドランブイも何かを察したようだ。
「貴方にこの娘を殺せるかな」
ドランブイは不敵な笑みを浮かべる。
「……」
ドランブイは、夜の薄闇に映える青が小刻みに揺れているのを見逃さなかった。
「この娘さえいなくなれば、グリーティア教もアンゴスチュラ教もおしまいだよ。さぁほら、どうしたんだ」
ドランブイは、そう言うと、術が届く距離まで行けば貴様などおしまいよだ、と心の中で思いながらゆっくりと間合いを詰めていく。
「……あ、あ…」
カシスは恐怖で声も出ない。目をつむり最期を決していた。
すると不思議なことに、カシスの短い一生が走馬灯のように頭に浮かんだ。
頭に浮かぶのは、同じ夜空の下の昔の玄関先だ。
(「……おまえは本当の娘ではない……」
「…でもいつか、マラ一緒に暮せる日が来るだろう」
今日までずっと待ち続けたのに。もう一度会いたいよ。本当の親じゃなくても一緒に暮したいよ。)
言葉にならない声が涙となって皮膚をつたう。
「おとぉーさーん!」
カシスの鼻水混じりの声が部屋に響く。
「……ウゥ……」
震えた声がシャルの判断を遅らせる。
「!?」
「ジ・エンドだな」
気付けばドランブイはシャルの背後にまで回りこんでいた。
「なに!手、手が」
ドランブイは魔力で手を封じていく。
「くそっ」
「所詮は、護衛騎士。貴様の魔力もその程度のものか。三十そこらの若造じゃあこんなものかな」
「二十九です。年は関係ないでしょ」
「無駄口を叩いている暇がどこにあるかな」
そういうと、ドランブイは残っている腕を振りかざし、炎を作り上げた。
「う、動かない…。カシス逃げろ!!」
シャルの声に気付いたカシスだが、炎はもう目の前まで迫っていた。
「私も体が……」
積んで来た練習も教祖の前では無力だった。
「くらえっー」
シャルもカシスも心の中ではこう思っていた。
(もうダメだ)
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