「菜の花畑に」
著者:創作集団NoNames



−3−

 その翌日の月曜日。
 いつも通り朝早くから学校へ行き、いつも通り進平を追い払う。
 そして、植物たちに話し掛けようとしゃがんだ時、ある事を思いついた。
「おい、精霊。いるんだったら出て来い」
 一瞬の沈黙の後。
「は〜い」
 後ろにあの少女が立っていた。格好はこの前と同じだ。
「うげ、本当に出た」
「自分で呼んどいてシツレイな。で、何の用?」
 とりあえず啓も立ち上がった。
「あ、そうそう。睦葉ちゃん良くなったね。おめでとう」
 嬉しそうに啓の肩にポン、と手を乗せた。
「なんで知ってるんだ?」
 よほど不思議そうな顔をしていたのだろう。また以前のような笑みを浮かべている。
「しょーがない。教えてあげよう。じつはね、昨夜あの子の部屋にいたんだ。植物さえあれば、私はどこにでもいけるからね。それでずっと見てたの」
 ずっと見ていた。それはつまり…。
「『利益だけじゃ、人は動かないんだよ』だって。かっこいー」
 ばっちり聞かれていた。こうして人に言われると余計に恥ずかしくなる。
「ま、とりあえず一安心。ってことだね」
 メチャクチャ恥ずかしいが、どうやら昨日の行動のおかげで睦葉は助かったらしい。
「その話はもういい。それより今日は聞きたい事があるんだ」
 これ以上触れられたくないので、啓は無理やり話を変えた。
「遠山さんの話だと、父さんとお前は何か約束をしたそうだが?」
 確かに彼はそう言っていた。
「約束?ああ、あれの事か。君のお父さんはね、私になったんだ」
「え〜っと、どういう事?」
「彼の魂は私の中にあるってこと。そうすれば、君が植物のそばにいる限り、彼も君のそばにいられるから。私としか話できないけど、彼は君の事を見守ってるよ」
 つまり、草にも花にも父の魂がこもっているらしい。
「彼の記憶は私の記憶でもあるから、遠山さんや睦葉ちゃんを知っていたのもそのため」
 それで睦葉の危機を啓に教えたのだ。啓の記憶によれば、拓弥は睦葉も自分の子供のようにかわいがっていた。
「そういえば、いつそんな約束をしたんだ?」
「君が生まれたころだったかな。あの頃の君はかわいかったよ。彼の病気はその頃ちょうどわかったの」
 校舎の方から予鈴がなるのが聞こえた。だが、今はそれよりもこっちの方が大切に思えた。
「病院を抜け出した後、彼はあの場所に来たの。緑に囲まれた、あの場所で彼は眠りたかったみたい。そして、犯罪だと知りつつ、体の埋葬を遠山さんに頼んだの」
 啓のつけている腕輪とロケットは、父の墓標代わりなのだ、少女はそう言った。
「けどもう必要ないね。これからはいつでも会えるんだから」
 そう言って彼女は微笑んだ。つられて啓も笑顔になる。
「話を聞けてよかったよ」
 心からそう思う。これで四年間のわだかまりがすべて解消したはずだ。
「話がしたくなったらいつでも呼んでいいよ。君は私の子供みたいなもんなんだから」
 外見が自分と同じくらいの人にそんな事を言われるのも、なかなか複雑な気分だ。
「そうするよ、それじゃ」
 別れを告げて校舎へと向かった。

 学校が終わると、すぐに啓は家に帰った。
 病院にいくために近くを通るので、いつもよっていくのだ。
 家に入ろうと思ったら鍵がかかっていた。今日は母は休みのはずだが、どうやら先に病院にいったようだ。
 自分も早く行こうとカバンをベッドの上に放り投げ、私服に着替えた。
 さあ行こうとしたところで、じゃまをするかのように電話がかかってきた。
 無視しようとも思ったが、緊急の用事だと困るのでしぶしぶでる事にした。
『もしもし、啓?』
 母からだった。何故か声が焦っている。
「何?忘れ物でもした?」
『なにのんきな事言ってんの。そんな事よりも急いで病院に来て』
 皮肉な事に、確かにそれは緊急の電話だったのだ。




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