「竜崎幸一とコートの裏の脅迫者」
著者:雨守&蓮夜崎凪音(にゃぎー)




 序 章


『全てのデータ破壊されました…!!残念』

「何っ!?」
 幸一がインターネットで調べ物をしている最中に突然パソコンの画面上にこんな文字が表示された。
「な、何だよこれ…」
 幸一は急いでネットへの接続を切ろうとした。
 が、既に時は遅かったらしい。
 キーボードもマウスも、一切操作が効かない。
「もしかして…また!?」
突然、画面全体が真っ暗になり、怪しいドクロがケタケタ笑っている画像が映し出された。
「くそっ」
 何も出来ない事にどうしようもない苛立ちを覚えた幸一は、思わず拳を握り目の前に置かれているキーボードを力一杯叩いた。
 その後、しばらく幸一のパソコンは操作不能になり、謎のドクロは三十分程画面上で笑い続けていた…。

 やがて、パソコンの画面上のドクロが消え、コンピュータが正常に作動し始めると幸一は再び慣れた手付きでキーを叩き始める。
 そして、すぐに予想していた最悪の現状を確認した。
「…くそっ、やられたか…」
 幸一のパソコンのありとあらゆるデータが残らず抹消されていた。
 幸一は肩を落とし愕然とした。
 『コンピュータウィルス』…その類の物に違いは無いだろう。どこの誰かもわからないが物凄く趣味の悪い根性の曲った人物が、コンピュータに侵入してデータを破壊するプログラムを何らかの方法で送り込んできたのだろう。
 ただ一つ、幸一にはこれが無差別の相手を対象に行われた悪戯だとはどうしても思えなかった。
 何故ならば…、まったく同じ状況での被害が今月に入ってもうこれで三回目なのだ。
 三回とも、幸一がネットに接続している最中に事は起こった。
 状況はいずれも同じ…、丁度三十分程前に目の前で起きたのと同じ様に突然パソコンの操作が効かなくなり画面全体に怪しいドクロの顔が映し出される。
 そのままの状態がしばらく続き、再びパソコンが正常に動き出した時にはジ・エンド…。
「いや、待てよ…」
 その時、幸一はふとあることを思い出した。
 そうだ…、これだけでは終わらない…。
いつもと同じならばこれだけでは終わらないはずだった。
 おそらくこの後に…。
「…!?来た!」
 やはり幸一の予想通り、思い出すや否、「それ」は幸一のパソコンの画面上に飛び込んできた。
 おそらくこのどうしようもなく悪趣味な悪戯をしかけた犯人のこだわりだとでも言うのだろうか、全てのデータを破壊し尽くした後に必ず届くのだ。
 一通の「メール」が…。
 これまでの二回では、届いたメールはそれぞれ違った内容の物だった。
 一度目は『プレゼントは気に入ってもらえたかな?』。
 二度目は『毎度、お疲れ様でした』。
 いずれも大した意味の含まれていない、人を馬鹿にした内容のメールだった。
一体、今回はどんな文章が…。
 先走る気持ちを無理に抑制しながら幸一はすばやくマウスを操作し、受信ボックス内の新着メールを開く。
 そして、その内容が幸一の目に飛び込んでくる。
「…これは!?」
 幸一はその内容を読むや否、一瞬硬直する。

『明日の午後一時十分、もっと素敵なプレゼントを届けよう。RYUKO君』

 たった一文…、メールの内容はやはり人をコケにしたような短い文章だった。
 しかしその文を目にした瞬間、確実に幸一の顔色は変わった…。
 これは、明らかに今までの二回とは違っている。
「ま、まさか…」
 その一文には間違いなく犯人が意図的に込めた、幸一に対するメッセージが入っていた。
 そう…、犯人自身の正体を暗示する『キーワード』が…。

 つまりそのメールそのものが、幸一に対する『挑戦状』に他ならなかったのだ。





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