クランベリープリンセス
著者:創作集団NoNames



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「ミルーー!」
 改の叫びはもはや逃げ去るシフォリネイテたちには聞こえなくなっていた。
「黒桜、今そこで叫んでも意味はないぞ」
 脚が動けずにいる改に対してジンは冷静に抑えた。
「そうね、まずはあんたがまともに動けないんじゃ追いつけても無駄よ」
 香澄が改の足を診ながら鋭く指摘する。
「エメラダがなんとか動きそうだよ」
 ピュアレアが落下物を点検していると案外破損は少ないことが分かった。
「それじゃぁ早く起動してくれ、この馬鹿が突っ走らないようにな」
 ジンが改を見据えて言った。
「ほいほい、そんなに時間はかからないよ」
 ピュアレアは(元)恋人が無事ですっかり機嫌を取り戻していた。
 ヴーン。何やらモーターが回転を始めたのか振動音が聞こえ始めた。
「来た〜僕のエメラダ〜」
「確かにお前のエメラダだが本物はどこにいるやら…」
 ジンが動き出したエメラダの座席に座りながら冷や水を注す。
「こんな恋人しかいないんじゃ寂しいね」
 香澄も続いて席に着いて氷水を注した。
「俺は興味ない、それより動くならさっさと動かせ」
 改も席に着くと、ただ催促した。
「………」
 黙って操縦桿を握りシフォリネイテが逃げたほうへ滑り始めた。
「風か…」
 改は髪をバサバサと乱す風を感じながら、あの不思議な光の中を思い出していた。穏やかな風を通す不思議な空間、体力を回復させる。不思議な光。
「この石、これがこの争いの原因なんだな…」
「そんなのが無くてもミルちゃんは危険な目にあっとるよ」
 ジンが考えに更けている改を見て反応する。
「現に美術館に捕まっていたのは彼女の力を欲しがる輩がいたから、あそこで買い手がつくまで閉じ込められていたんだよ。そのクランベリープリンセスと一緒にな」
 ジンはやけに饒舌に話す。
「なんでそんなこと知ってるのさ?まるで自分も一枚噛んでいたみたいな…」
 香澄が後部座席から髪を乱す風に苛立ちながら乗り出してきた。
「その通りかもな、俺の若いころには魔女狩りなんて言って一方的に魔女を殺したり捕らえたり、いろんな無茶をやっていたんだ。最もそのころには既に終息しようとしていたんだがな」
 ジンは続けて話し始めた。
「捕らえた魔女は刻印を付けた体の部位を剥がされ魔力があろうと使えない状態にして奴隷として扱う貴族階級や、串刺しにして火刑にかけたりもした―」
「ひどいね〜魔女じゃなくてよかったよ」
 ピュアレアが案の定よそ見しながら話しに絡んできた。
「お前は前見て早く追いついてくれ……それでだ、ポイントはこれからだ、そのクランベリープリンセス一体どこで発見されたと思う?」
「魔女の住処かしら?」
「魔力があるんだ魔女がらみなのは確かだよな」
「そう確かに魔女がらみだが魔女も当初その存在を知らなかった。最初に見つけたのは我々ただの人間だったんだ」
「どうして〜?」
 やはりよそ見…
「お前は運転だけしてろ。答えは体内、魔女の焼けた体から出てきたんだ」
 ジンの目にはまるでその光景が目の前に広がっているかのように話している。
「別に全ての魔女から出てきたわけじゃない。当時の魔女の中では最も危険とされた魔女。
シセ=エルドラウトの体内から出てきたんだ」
 ジンはこの名を出した瞬間顔をしかめた。
「エルドラウト…どこかで聞いたような…」
 改は頭のどこかで聞き覚えがあったが、思い出せない。
 ジンは考える改をそのままに話を続けた。
「シセは魔力を体内に蓄積していたんだ、それが結晶となって火刑の時、体内から出てきた。人間はあまりの綺麗さに破壊を惜しんだ、そして美術館の奥に安置することに決まったんだ。それからは―」
「それから俺が盗んだわけだ」
「まぁそうだ、魔女の大半も今はほとんどいない様に言われたが、この様子だと巧く生き延びたものが多くいるようだ。その中にミルが…まぁ情けないことに人間に捕まってしまったんだな」
「経緯は分かった。ジンさん。あんたはそれに何の関係があるんだ?」
「それ、僕も聞きた〜い」
 やっぱりよそ見…ゴキッ!
 ジンはピュアレアの首を無理矢理正面に向かせた。
「なに、その魔女を焼いたのは若かりしころの俺で石の虜になったのが美術館の館長だったんだ」
「ジンさんやっぱり結構な年だね」
 香澄がつつく。
「そんなことが言いたくてこんな説明をしているわけじゃない!その石は魔女の力を持ち、魔女には強力な力を生み出す。つまりその石を狙うものが何故かは知らないがそのことを知っていて、その力を求めているわけだ」
 改は石を見つめている。
「そして問題だ、エルドラウト家ってのは結晶の一族と呼ばれていて、本人は実は対して強力な魔力を持つわけじゃないんだ。つまりその石を体内に作ることで魔力を失っていたんだろうな。だが他の魔女と組んだ時には絶大な相乗効果を生んだらしい」
「でもその石はここにある。何が問題なんだ?」
 改は石をジンに見せる。
「エルドラウト家の特徴を調べたんだ。そしたらな、赤い髪、代々紫色のローブを羽織っていたことが分かったんだ。…ミルちゃんに当てはまらないか」
「!!」
「気付いたか…これを知ったときには儂も、いや俺も驚いたよ」
「つまりミルの体内にもこれがあるってことか!?」
 改は石を握り締めて叫ぶ。
「まぁ、落ち着け。やつらの狙いは当初そのクランベリープリンセスだった。しかし、その石の家系であるエルドラウトに目をつけたんだ。その結果ミルは拉致られる理由が出来たわけだ」
 ジンは難しい顔をしながら言っている以上に何かを考えているようだ。
「さてさて、皆さん会話は一旦終了みたいだよ〜」
ピュアレアが全員に未だに緊張感の無い口調で話す。




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