第六章 石・意思・遺志
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深緑色のローブを羽織った男は焦っていた。先の交渉の決裂の直後から仲間たちが突如として消え始めているからだ。
「シルバが何かを仕組んだのは違いないのだが…」
一人仲間とは距離を置いて祠にこもり、千里眼を働かせて周囲を読んでいた。
「…戦闘があったようだな、シフォリネイテ、イルティンドルツ、ミリアベル!戻ってきたのか。それに一般人が紛れ込んでいるのか…」
ラウゼンはミルが戻ってきたこと以上に一般人がこの森に侵入して戦闘をしていることに驚いた。
「いかん!シーズベルト!…やられたか」
また一人、仲間を失った。
「なに!ミリアベル!」
ラウゼンの目には今まさにシフォリネイテの手によってミルが捕らえられたのが見えた。見えてしまったと言った方が正しい。ラウゼンの千里眼はこの森の七割を視野に入れている。その中にミルたちがいたそれだけの事だった。
「石の反応?そうかあの一般人が持ってきたのか…!…」
ラウゼンは急いで立ち上り、ローブを羽織りなおして急いで祠を出た。
「なんとしても先にあの石を手に入れねばならない!」
祠から出ると辺りを見回した。
「もう森の住者はいないか…」
森は風に揺らぐ以外の音を放たない。
「我が右に仕えし、厳格なる森の狩人よ、我が命により今ここに我が脚となりて仕えよ。
シルフ!」
ラウゼンが詠唱を終えると同時に右の手から暖かな緑の光を放ち、やがてその光は彼の両足を纏い、穏やかに消えていった。
それを確かめるとラウゼンは走り出した。その速さは老人の比どころか若者の走る速さ
に勝る素早さだった。
この召霊術は術の中でも初歩のもので、自然を魔道に取り込むものは誰もが使う簡単なものだ。若い魔女が使えばラウゼン以上の速さで移動することも可能だが、それは自身の 肉体が耐えられれば、の話であるが。
「ミリアベル……」
ラウゼンはこの争いに終止符を打つには自分は老いすぎた。そう実感していた。そして終わらせる者はそこにいると確信していた。そのためには自分の命は賭さないとならないとも思っていた。
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