「My Owner is Excellent!!」
著者:創作集団NoNames



   −2−

「凄かったねー、やっぱり神力っていうのは信じられないものなんだね」
 カシスとカンパリの二人は見世物が全て終了して、人々が帰り始めた流れにそのまま任せて帰路に着いていた。
「ああ、本当に驚いたよ。神力を使える人間を間近にして見ることが出来るなんて、ついてるね。少なくとも俺は一生のうちに見られるかどうかぐらいの存在だと思うよ」
 カンパリもすでにあの青年の力に魅入られているようだった。
「そんなに凄い存在なんだ? 皆に自慢できるね」
 カシスは軽い足取りで歩いていた。
「そうだな、でも皆も普通に見てるんじゃないか? それに明日も公演するみたいだし」
 カンパリはカシスの笑顔を見て嬉しい反面残念にも思えた。
 カシスは普段はこれほど感情豊かに話す少女ではない。むしろ無口でどこか近寄りがたい雰囲気を作り出しているといった感じが学校では常である。今回の『自慢できる』というのは自分がではなく、カンパリがという暗黙の解釈が存在する。そしてカシスはカンパリにはどこか気を許せるものがあってか仲良くなり、今回のように二人で出かけるようなことも数回あった。
「そっか、そうだね。でも、あんないろんなことが出来る力持ってるなら世界征服だって簡単に出来ちゃうだろうね」
 カシスは無邪気に当たり前ながら恐ろしいことを言う。
「それは大丈夫だと思うよ。基本的に祝福は選ばれた人間しか得られなくて生まれつき運命が定められているものらしいよ」
「そういうものなの?」
「そういうものらしいよ、今も昔も神力を悪用したって事件を聞いたことはないだろう? それが公に知られてない理由の一つなんだけどね」
 カンパリは自分の知るウンチクを語れることに微かに喜びを感じていた。
「なるほどー」
 カシスはフムフムと頷いた。
「でも例外もあるんだよ」
「?」
「今日の人だよ、ペルノーとか言ってたっけ、普通は施設で大人になるまで特殊な教育を受けて特別な人間として世に出てくるんだ、だからあんな若さでしかも大道芸人やってるのは例外なんだ」
 カンパリは自分のウンチクを語る。
「…そういうものなんだ…なんか不幸な人なんだね」
 カシスは不思議な力に憧れていたが、その反面か話を聞いてとても悲しそうに見えた。
 二人は人気の少なくなった路地を静かに歩いていた。
『…………』  そうこうする間にカシスの家の前にまでやってきていた。
「…じゃ、今日はありがとね」
 カシスが沈黙を破って、さよならを言う。
「ああ、またな」
 カンパリがそれに答える。カシスはそれを聞いて家の中へと入っていった。
「…じゃあな……例外は彼だけじゃないけどな…」
 カンパリはカシスの家の前を離れながら一人呟く。
「さて…いるんだろ?」
 カンパリは人気の無くなったのを見計らって男の名前を呼んだ。
「あれ? バレてました〜?」
 路地の角から中性的な声をした人影がひょこっと姿を現した。
「まったく、あまりうろついて計画を台無しにするなよ」
 カンパリは驚くでもなく話し始めた。
「大丈夫ですよ、それにカンパリさんの連れてた彼女が少し気になりましてね」
 ペルノーと呼ばれてた男はどこか楽しむように返した。
「別に何もないさ、他のガキに比べて異色だったから興味があっただけだ。そんなことよりそっちの準備は済んでるんだろうな?」
 カンパリの口調はどこかカシスと話していたときのものとは異なってきていた。
「大丈夫ですよ、この国はすっかり平和ボケしていて、入国に検問があるといっても我々の出し物だと言ったらあっさり通してくれましたよ」
 男は馬鹿馬鹿しいといった感じで語る。
「本物はとっくの当に死んでるというのにね」
 男はクスクスと笑う。
「平和ボケした国が戦火の始まりとなるんだ。面白いじゃないか」
 カンパリは男が笑うのに合わせて一緒に笑う。
「…そうそう今日の団長を演じてたグラッパ、あいつはもう用済みだ」
「長かったですね。我々は彼の財力を当てにしていただけなんですから…」
 男はニヤリと笑う。
『全ては我らが主のために!』
 二人は合言葉のように声を合わせて言うと、すれ違うようにしてそれぞれの道を歩き始めた。
 そして暗闇の中へと溶けていった。




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