―最終章―
(ベルランスの手記)
『この世界は、三兄弟の神が作り出したものである。
まず、三人の中で長男に当たる私が台地と太陽を作り出した。
次に、次男のアンゴスチュラが海と空を作った。
そして、一番下の女神のグリーティアは月と星を作った。
その後、三人は今度は生物を作り始めた。
植物を始め、魚や鳥、大小さまざまなもの。
たくさんの生物を作り終え、一つの世界は完成した。
あるとき、長男の神が数人の人間を造った。
その人間はみな、とても美しく、そして賢かった。
それを見た末の女神も、まねをして人間を造り始めた。
どの人間も、取り立てて長所はなかったが、女神はたくさんの人間が造れた。
次男の神も、人間を造ってみたが、うまくいかなかった。
ある程度の数は作れたが、どの人間も醜かったり、凶暴だった。
何度繰り返しても、次男は良い人間を作ることは出来なかった。
そのことに激怒した次男は、自らが創った海で全ての生物を沈めてしまおうとした。
当然他の二人にはそれに反対した。
困った私は、グリーティアに教会で、魔力を使ってアンゴスチュラを封印するように相談した。
彼女だけが封印の術を使えるからだ。
初め、彼女は反対だった。
魔力を封印することは、武士から刀を取り上げるようなもの。
彼のプライドを更に傷つけてしまうであろうと。
けれども、私は反論した。
彼が作った民が、我々の造った人間に危害を与えている。
私にはそれが我慢ならない。
封印は、ことが収まったら解けばよい、と言った。
彼女はしぶしぶ納得して封印することにした。
その日は、ぐずついた天気の日だった。
彼女はうまく彼を呼び出すことに成功した。
そして、事件は起きてしまった。
彼女は封印の術を使うことに成功したが、彼の持っているエネルギーがあまりに膨大だったのでグリーティアは死亡。アンゴスチュラは瀕死となってしまった。
今考えると私はこのとき、正気ではなかった。
彼女の死は、私が依頼したことによる事故死である。
私にはただただ彼の暴走を抑制したかったのである。
それがこのような結果になってしまった。
だから、この暴走を止めるために私は、私自身で、アンゴスチュラの造った民を殺害した。
当然アンゴスチュラは怒った。
貴様は、オレの作った民を撲滅させ、私を殺害しようとした、のだと。
それがために、私と彼で兄弟喧嘩になってしまった。
彼の魔力は完全には消し去っていなかった。
それでも私の魔力には足元にも及ばなかった。
私は卑怯にも魔力を使い、アンゴスチュラを洞窟に閉じ込めた。
我が愛する兄弟よ。
今となっては弁解することが出来ないが、これが事実である。
殺すつもりなどなかったのだ。
いじめたわけではないのだ。
ただ、安全な人間界の秩序を生み出したかったのだ。
弟の民を殺してしまったことは非常に後悔している。
だから、私は責任を取らねばならない。
よって自害する。
PS:この書を読んだ人々よ。
魔力を持っていることはなんと無意味なことであろうか。
私は無駄な争いや特権は廃止し全てのものが常道であることを望む
ベルランス』
「魔法は、人々を幸せに導くものだけではないのね」
カシスがつぶやいた。
「そうだね。兄弟三人が揃って力を合わせないとダメだな」
シャルが噛み締めるように言った。
「アンゴスチュラ殿には色々と申し訳ないことをしたな」
「何を言っているんだ。おまえ達がしたことじゃない。先祖がしたことだ。復讐は復讐を生むだけだということがよく分かった。それにお前らが反省していることも……」
ドランプイの目から光るしずくが落ちた。
「……おれは………おれは、自分のためだけに多くの仲間を裏切り……多くの仲間を殺してしまった……」
かすれ声でドランプが言った。
「ねぇ、三人で封印の魔法を使ったらどうかしら。こんなことになったのは、人間を神力で操れるのがいけないのよ。この特権がなければいいと思うの。どうかしら」
「確かにカシスのいう通りじゃな」
ベルランスは同意した。
「俺も賛成だ」
ドランプイも目をぬぐって行った。
「三人の手を合わせて、呪文を唱えるのじゃ。一度やったら戻れないが良いかな」
そう言って、三人の顔を見ながら手を差し出した。
カシスとドランプイもその上に手を置いた。
「いくぞ、TNEL LECX ES IREN WOYMだぞ、せーの」
『TNEL LECX ES IREN WOYM』
すろと、ドランブイの額にあった紋章がなくなった。
「これで魔術に関する書物も全て消えただろう」
「ううん、写真はまだ残ってるよ。いつまでも」
そう言ってカシスは胸元から写真を取り出した。
「これでやっとゆっくり暮らしが出来るんだよね……お父さん……」
「そうだな。ご先祖様は兄弟だったんだからな」
ベルランスが晴れ晴れとした表情で言った。
「私も忘れないで」
とシャルが言って、外を見た。
「もう朝ですね」
「きれいな日の出ね」
「そうだね」
こんなに恍惚として見ほれる太陽は、まるで全てを見ていた司教の神のようであった。
【END】
[第六章・第四節]