「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



−2−

「一彦さん、早く」
「お前は飛んでるからいいよな。壁をよじ登る苦労がなくて」
「追っ手に見つからないための苦労だ。辛抱しようぜ、ブラザー」
 壁の上からひょいと裕也の顔と手がのぞいた。
 迷わずつかんで引き上げてもらう。
「よっ、と」
 ガキの頃はよく自分の背丈より高い塀をよじのぼったりしたが、高校生になってこんな真似をするとは思わなかった。
 塀をよじ登って雨どいのようなものにつかまると、目の前にはバカみたいな高さのノワール城が見える。
「うわ、でっけーなぁ」
 隣で似たような感想を裕也が漏らした。
 再びスカイに戻って四日目。つまり昨日のシェラ戦のすぐ後、俺たちはブラウンの街を後にしてノワールへ戻ってきた。
 街には俺たちを待ち構えていたかのように「闘技場」での準備がすんでいることを告げる立て札が立ち並んでいた。
 しかも、日時指定に来ない場合は、ご丁寧に理奈を殺すとまで、書いてある。
 未知数とはいえ、シェラが持ってた魔剣の類と自分の意味不明な能力があれば、少しは戦えるだろう。自分が動いている間に、理奈を裕也が助け出すという寸法だ。
「闘技場は、もっとあっちです。あ、あの楕円形のヤツ」
 ココノが目の前をふわふわ飛びながら、ノワール城よりもっと左のほうを指差した。
 確かに、競技場みたいな楕円形のスタジアムらしきものが見て取れる。
「あ〜、なるほど。いかにも闘技場っぽい形だ」
「そうだな。あそこに理奈がいるわけか」
 急に、あの膝蹴りが懐かしく思えた。
 決して変な趣味とかそういう意味でなく。
「理奈がさらわれてからもう四日目か」
「ま、俺の妹だ。元気でやってるだろ」
「お前なぁ………」
 理奈は裕也と違って基本構造がもっと繊細だ。
 元々真面目なことに関しては物事を深く考える性格だった。
「変なこと考えすぎて頭クラッシュしてなきゃいいんだけど………」
 頭をかきながら、裕也がずれた伊達眼鏡をかけなおす。
「さて、見つかっても事が事だし、急ごうぜ」
「ああ。とりあえず、ここでお別れた。俺は別口から闘技場に入り口がないか調べてみる」
「一人で平気か?」
「ザコ相手なら大丈夫だろ。それに忘れたのか、俺だってオッドアイなんだ。髪が赤いお前といたほうがむしろ目立つし」
 なるほど。
「そっか。んじゃ、暴れてられる間に頼むぞ」
「おう、この裕也君に任せなさい」
 裕也は片手を上げると、笑顔で塀を飛び降り、路地裏へ消えていった。
 相変わらず、どこから来るのかわからない自信だ。
「大丈夫でしょうか……裕也さん」
「アイツが大丈夫っていってるんだから平気だろ。さ、俺たちも急ぐとしようぜ」
「あ、はい」
 塀から飛び降りると、まっすぐに路地を駆け下りる。
 目的地までは、ほぼ一直線だ。
 兵士達が現れても、駆け抜ける予定でいた。
 もう戻れないと、自分に言い聞かせるようにして、俺は坂道を下った。




[第六章・第一節] | [第六章・第三節]