「利用した者、させた者」
著者:創作集団NoNames



    −5−

 寝る前は色々な事を考えてしまう。
 その日の夜、靖子はなかなか寝付けなかった。
 祖母が遠くへ行ってしまう。
 さっきからその事が頭から離れないのだ。
 いつまでも一緒にいられないのは分かっている。それでも、もう少しだけ一緒にいたいのだ。
 祖母の性格は良く知っている。あそこまで決めているのなら、もうその意思を変えるのは不可能だろう。
 靖子は暑さによる不快感から、寝返りをうった。
 そして、幸太郎の事。
 今日会った時は本当に驚いた。まさか彼もあそこにいるとはおもっていなかったのだ。
 しかし、会えてよかったと思う。
『何も心配要らないよ』
 その言葉が聞けて、本当に嬉しかった。その言葉があれば何でもできる、とも思った。
 だが、帰ってきた後にきた耕二からの一本の電話で、その思いも打ち崩された
 幸太郎は、理沙を選ぶだろのだろうか。
 彼は、自分に嘘をついているのだろうか。
 そんな事が頭の中を駆け巡り、靖子を睡眠から遠ざけようとする。
 寝苦しさに耐えかね、起き上がると体中汗だらけだった。
  とりあえず汗を流そう。
 風呂場は祖母の部屋から離れているので、起こしてしまう事も無いだろう。
 頭からシャワーを浴びていると、少しはいやな気分も流れていくようだった。
 汗を流して部屋に戻ると、急に眠気が襲ってきた。
 何だか疲れた…
一番信じていたい人が信じられなくなってしまったのだ。なら、一体誰を信ればいいのだろうか。
またそんな事が頭に浮かんできた。
明日、彼に相談してみよう。あの優しい幼馴染なら、また自分を助けてくれるかもしれない。
 さすがに眠気が強くなってきた。今なら眠れそうだ。
 目を閉じると、靖子はそのまま深い眠りに落ちていった。

 それぞれの思いが交差していく中、ただ静かに雨は降り続ける。




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