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誠一は研究室でパソコンに向かっていた。
澪とは昼飯を共に食べ、そして適当なことを言ってわかれた。そして研究室に戻ってきた。
「先生は案の定、昼過ぎに来た。俺が来てるのを少し驚いていたが大して詮索はされなかった」
パソコンの中身を見てやはり気付く。
「今日は22日か…」
内臓のカレンダーも22日を示している。レポートの内容も昨日に戻っている。
「笑えねぇ…」
とりあえず再びパソコンに無機質な文字群を並べていく。
逆に進みが良い。一度打ち込んだ内容は楽に打てる。少なくとも昨日以上は進みそうだ。
時間の経過もその分早かった。
針は縦一列になっている。
「…休憩か」
静かに呟いて電源を落とす。
「なぁ、景汰」
「独り言かと思ったけど、気がついてたのね」
後ろから景汰がそそくさと現れる。
「なんだ、気付いてたんならもっと早く休憩してくれよ。こっちは十分以上待つ気はないんだから」
そう言って腕時計を見る。
「いや、何、記憶にあったもんでね試してみた」
誠一が少し面白そうにこたえた。
「?何を?」
景汰が意味不明そうに首をかしげる。
「こっちの話だよ、気にするな。休憩に行くんだろ」
誠一は席を立って景汰を促す。
「あ、ああ」
要領を得ないといった感じで返事をしてついていく。
「ところでまだ終わらないのか?」
景汰が両手を頭に乗せながら聞いてきた。昨日と同じだ。
「ん、ああ終わらないな」
「そんな何まじめにやってんだよ、適当にやればすぐ終わるぜ。お前のこなしてる量がもはや普通のやつらの2倍はつくってあるぞ」
景汰があきれ気味に聞く。
「そうだな、くっ」
誠一は耐え切れずに吹いていた。こうもそのままの内容が続くとは期待してなかった。
「なにが面白いんだ?今日はやけにご機嫌だな?いいことあったのか?」
「ん、まぁな」
不思議そうに聞いてくる景汰を軽く流しながら食堂へと入っていく。
自販機に向かい合って小銭を入れる。
ガコンッ
いつも同じ調子で返事を返す自販機に万人がお辞儀をする。誠一も例外ではない。
京汰も同様の手順で飲み物を買う。
プシュッ、プルタブが小気味いい音をたてる。
「しかしいつまでレポート作ってるんだよ。皆はこの時期遊んでるぜ」
「別にいいんだよ。やることがないんだから。なにかしてないと死人と同じだよ」
口に缶をあてて一口すする。
「死人て、別に研究以外にもやることがあるだろう。遊んだり、彼女作ったりいくらでもやることあるだろうが」
「それこそ俺には理解できないね。せいぜい付き合いぐらいなら参加するけど。自分からしたいとは思わないね」
「本当に変わり者だよな、友人無くすぞ」
昨日と同じ会話が続く。誠一は自分でこの流れを再現していると思うと面白かった。
「必要ない!」
誠一が即答しながら景汰を指差した。
「あいかわらず恐ろしい奴だな、なんで俺はお前なんかとつるんでるんだろうな?」
景汰が悲しそうな顔をするがそれは演技にすぎないのが誠一には分かっていた。
「それはお前が俺から試験対策やノートの複製を頼む間柄だからだ」
これに関しても誠一は即答した。面白いぐらい再現できる。
「おいおい、それって俺が好きなように利用してるみたいじゃんかよ」
景汰が反論する。
「それのどこに偽りがある?明らかに俺に寄生してるだろ」
誠一がはっきりと答える。
「本当、その性格何とかしろよ!だから友達ができねぇんだよ」
「分かってるよ」
誠一は少し寂しげな顔になった。この会話が続くということは明らかに自分が感じた昨日の出来事は無かったことになっている。
「お前は本当にそんなんで就職できるのか?地が出たら一発で終わりだぞ」
景汰もすすりながら言う。
「何とかなるよ。俺が、目指してるのは研究者だ、人との関わりは必要無い。入れば、後は自由だ」
誠一は思い出しながら言葉をつなぐ。
「もったいないな〜お前その性格さえ何とかなれば少しはもてるのに…」
景汰がボソリと言う。そして取った缶をのふたを開けた。
「そうかな…」
思わず呟いた。
「?らしくないな。どうしたんだよ」
景汰が誠一の反応の変化に動揺していた。
「なんでもない。ちょっと考え事があるだけだ」
何とか取り繕う。
「合コンか?あれにはもう行かないぞ、所詮俺には向いてないし、必要無い」
もう一口すすりながら返す。
「『俺には必要無い』そんなこと言う奴はもう誘わないよ」
景汰が思い出すように薄く笑った。
「誘われないで結構」
誠一も鼻で軽く笑った。
二人は食堂を後にして再び研究室に戻ろうと廊下に出た。
「俺は今日はもう帰るよ。彼女もいるからさ」
景汰の予想通りの台詞。そして研究室に着くと
「じゃ、お先」
と言って去っていった。
静かになって誠一は思い出していた。この後は部屋に入るとパソコンが…
「??あれ、点いてないか」
パソコンの電源はさっき出たときのまま電源は落ちていた。
普通に電源を入れる。
「多少の食い違いがあるのか?」
独り言を呟きながらキーボードを自分の打ち易い位置に構える。
時間はすぐに経った。
「そろそろ上がらないかい?」
後ろから教授がすまなそうに聞いてくる。
「あ、すいません。すぐに片付けますんで…」
誠一は気がついたら夢中になっていた。すぐさま記録を残し、電源を落とす。
片づけが終わり、一緒に研究室を出て駅まで昨日同様に歩いていった。
ホームを別れ、向かいの電車が先に来た。そして向かいに人気が無くなり、誠一は静かになったホームを見つめていた。
「明日は23日だよな?」
自問自答をする。したくてしょうがなかった。
「もしこれで…」
ガタンガタンッ!ガタンガタンッ!
電車が金属音を発しながらホームに滑り込んでくる。
誠一もその流れに従い電車に乗り込む。
「財布の中身は…やっぱりか」
案の定昨日のままだった。コンビニ行き決定だった。
コンビニで昨日とは違う弁当を買い家に帰る。
「少し得したかもな」
玄関の鍵を開けて中に入る。
静かな暗闇が部屋に充満している。
パチリと壁を押すとサッとその闇は引いていく。
昨日と同じ日だがどこか誠一は目線が変わっていた。
まだ少し温い弁当を開き、食べ始めた。
「このあと、景汰から電話がかかってくる。そして女子を連れてくる」
口に白いご飯を詰めながら考える。
「そうか、今朝片付いていたのは一昨日だと考えれば納得いく。そして…」
携帯が振動を始めた。中を確認するが、全てはその通りだった。もはや何も面白みはない。
昨日と同じような内容を誠一は返した。
「履歴に昨日はやはり無いのか…」
ふと携帯をいじって中を見るが昨日のデータはやはり無い。
とりあえず、喰いかけの弁当を片付け部屋を整理し始めた。結局は荒れるこの部屋を。
全ては同じ流れを繰り返していた。景汰は昨日と同じ女子を初対面だと言うのに誠一の部屋に誘い飲み会を始め、部屋のビール全てを飲み干し泥酔した。
そして誠一は…
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