「In The Rain」
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)



「おーい、中村さーん」
「………ちゃくしんきょひー」
「うわ、ひでっ!仲の良いクラスメートを前にしてそんな冷めたギャグを」
「はぁ、いっそアドレスごと消去したいけど……こういうとき人間の記憶って不便よね」
「マジで言ってますか」
「そりゃもう。で、何?」
「雨だから、途中までいれてくんね?」
「濡れて帰れ」
「うわ、ひとでなしッ!みなさーん、ひとでなしがここにいぐあぅっ」
「うるさいってば。逆恨みも大概にしてね」
「だからって傘で刺すなんて……反則だ……ぐふ」
「ほら、死んだフリもいいから。蘇れ」
「死んでないッス」
「立ち上がれ」
「………中村さん、こんな哀れなわたくしめに」
「分かったから、ほら、カバン落ちた」
「あ、ありがとう」
「それを頭に載せて帰りなさい」
「ホントに容赦ないね……」
「それはね、きっと君が笠野くんだからだよ」
「………ひでぇ」
「ほら、見たいテレビあるんだから、行かないんなら先帰るよ?」


「とはいいつつも、なんだかんだ言って入れてくれる優しい奈那子ちゃぶるぇ」
「幼馴染だからって、人前で名前呼んだら殴るって前に言ったよね?」
「ぐ、ぐぅっ……」
「笠野くん、私、何にも悪いことしてないよね?」
「…………ういッス……」
「よろしい。それにタダって言った覚えないけど」
「言われた覚えもありません」
「言ってないもん」
「……はめられた」
「ひどいと思ったらすぐさまここから雨の降る町へ飛び出していって」
「遠慮します」
「なら私の機嫌を損ねちゃダメだ」
「何気にすげぇこと言ってるの、分かってる?」
「受諾したら私の奴隷宣言だよね」
「イヤだっていえない状況でそういうこと言うのは卑怯だと思います」
「選ぶのは君だ、笠野くん」
「ってか、なんで名前呼んじゃいけないんだよー」
「ってか、この状況で名前呼ばれたら誤解されるだろうよ。ただでさえ『仲がいいクラスメート』なんだから」
「誤解?ああ……なに?そんなことを気にしてたん?」
「そんなことって、アンタと一緒じゃねぇ……」
「さりげなく鋭い棘だよ、それ」
「誰か人を一言でしばらく立ち直れなくさせる言葉を作ってくれないかなってたまに思う」
「………鬼や」
「なんか言った?」
「いいえ、何も」


「あー、さっきのたんこぶできてるよ、すげーいてー」
「腹殴ったのになんでこれ見よがしに頭さすってるのよ」
「痛いモノは痛いんだよ」
「釈明になってない」
「………でも、なにも本気で殴らなくても」
「急所に入れれば本気じゃなくてもそれくらい痛いよ、普通」
「………本気じゃないことよりも的確に急所狙ってる中村さんの方が怖いです」
「ありがとう」
「褒めてない」
「で……ホントに痛い?」
「まぁ、俺ロボコップじゃないからね、痛いよ」
「微妙にネタが古いのはなんで?」
「仕様」
「黙れコンチクショウ」


「じゃ、俺こっから直進なので」
「せいぜい濡れないように帰ってね」
「へーい、ありがとうございました」
「ったく、雨ふるって天気予報言ってたじゃんか」
「今日は八時半まで寝ていたよ」
「………もう突っ込まないよ、あえて」
「で?」
「……で、ってなに」
「傘、タダじゃないんだろ?コンビニでなんか奢ってやるよ、肉まんか?おでんか?それとももちょっと高めのデザートか?」
「ああ……なんだ、覚えてたの?」
「そこまで甲斐性がないとお思いか?中村嬢」
「お思いだよ?」
「生きてく気力がなくなった……この後、俺どうすればいい?」
「請求はしないから、動けるうちに早く帰りなよ」
「ひでぇ……」
「未だに付きまとわれて周囲に勘違いされている私を可哀想と思うなら、妥当だと思うけどな。元カレの癖に」
「そうですか……いまだにフリーでまんざらでもないくせに」
「はいはい………って、何してるの」
「え?ほら、雨がひどいから、折りたたみ傘」
「………」
「………」
「笠野くん、手、出して」
「………奈那子ちゃん、目が怖い……ってか手あったかいね」
「さ、コンビニへ参りましょうか」
「え?え、でもほらさっさと帰らな……」
「きりきり歩け、この野郎」
「……はい」




[終]

[ In the Snow ]