「アホ女 in the room」
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)



「あけましておめでとうござ」
「帰れ」
「このネタ一昨年にやったのに反応同じ!?」
「使うなよ………」
「今日はね、スペシャルゲストも連れてきたよ」
「人を巻き込むな…………って」
「いえーい」
「度々どうも………」
「………まあ、お茶くらいは出してやる」


「いやー、こたつがぬくいですなぁ」
「まったく………今年はちゃんと年賀状返してやったしみかんもやったのに、無関係な人を巻き込みやがって」
「あ、そうじゃないんですよ」
「え?」
「携帯で呼ばれて、初詣に一緒に行ったんです」
「誰かさんはバイト明けで行かないって言うから誘っちゃった」
「む」
「笠野くんは途中で中村さんのストーむぐっ……」
「途中で偶然ばったり合流してね」
「新年早々、煩悩で動いてるな、笠野」
「除夜の鐘で存在ごと消し飛べば良かったのに………」
「え、中村さん、なんか言った?」
「いいえ、何も♪」


「あ、そうだ。あのさ」
「菓子なら無いぞ」
「なんでこのやり取りでそうなるの!?」
「気がつくといつも食べてるくせに」
「う………」
「で、なんだ」
「この家に鍋ってどっかになかったっけ?」
「鍋?」
「ほら、家族団らんでぐつぐつやる奴」
「それが一人暮らしの家にあると思うのか、お前は」
「やっぱないかー」
「ってかなにをする気だ、お前」
「ふっふふー、気になる?」
「お前は帰れ」
「もはや会話になってないよ!」
「そうだな………あ、インスタントラーメン作る鍋があった」
「あ、じゃあそれでやってみよう。貸して貸しゃあぐぁ」
「さすが、空洞だけあっていい音するな。お前の頭」
「いったぁ…………お、乙女の頭をなんだと思っ………」
「あー、なんだろう、心に沁みるようだ」
「きゅう………」


「んじゃ、ちょっと台所借りるね」
「壊すなよ」
「壊さないよ!」
「どうかなぁ………」
「ほら、いいから出来上がるまであっち行った行った!」
「分かった分かった。壊す前にやめろよ」
「キーッ!」
「分かったからつねるな、痛い痛い」


「ったく、なんなんだ………」
「あ、戻ってきた」
「ほれ、粗茶だ」
「あ、ありがとう」
「せんきゅー」
「ねぇ、みかん食べていいかな?」
「大量にあるんで好きにしてくれ」
「はい、笠野くん」
「あ、ありがとう」
「違うよ、剥いて」
「女王様!?」
「私、笠野くんが居ないとなんにもできないの………お願い★」
「ただいまお剥きいたします」
「………なんか、新年早々見たくないものばかり見てる気がするんだが」
「見ない振りをすれば全て解決するよ」
「するか!」
「それにしても………」
「ん?」
「みかんすきなの?」
「田舎が毎年大量に送って来るんだよ」
「はぁ、それで」
「欲しいなら持って帰ってもいいぞ。どうせ食いきれないし」
「いいの?」
「まあ、アイツと争わない程度に分けてくれ」
「あの子ってそんなに食べるの………?」
「ん?」
「どうした、笠野?」
「なんか、台所から変な音と匂いがしないか………?」
「あのバカ、さっそくか」
「あ、いいよ。私が行く」
「あ、いや………でも」
「話したいこともあるし、平気平気」
「………じゃあ、お願いするよ」
「アイッサー。んじゃ、完成をお楽しみにー」
「何する気だろう………中村さん」
「あれ、笠野は何するか知らないのか?」
「うんにゃ、全然聞いてない」
「…………中村さんがいるから大丈夫だとは思うけど、不安だな」
「あれ、でも………奈々子ちゃんが料理してるとこって、見たこと無い……かも」
「きゃあああああああ!!」
「今、断末魔の悲鳴が………」
「笠野………聞かなかったことにしないか」
「それだと後が怖いかも………」



「………ったく」
「あ、あうあうあううああ」
「中村さん、落ち着いて。あれでもまだ奴はまだ真の姿じゃないんだ」
「何の話!?」
「とりあえず奈々ちゃん………みかんでもたべて落ち着ぎぃい………う、ぐ………」
「名前で呼ぶな………そして、笠野くんに慰められるなんてショック………みかんおいしい」
「で、お前何したんだ」
「むー………何がいけなかったんだろうね」
「まずお前の存在がまずかったんだろうな」
「存在から否定されちったよ、てへっ」
「てへっで済むくらいなら、消滅してもらった方がこの世のためかも知れんな………」


「で、被告はこの家でどんなテロ活動を行うつもりだったんだ?」
「テロ活動はひどいと思うな〜………」
「この惨状を作っておいてお前はまだそんなことを言うのか」
「ちょっとお鍋が吹いて火達磨あげて、驚いて飛びのいたら食器棚のガラスが割れただけ………イタイイタイ!暴力反ぎゃふー」
「お前は後でたっぷり体に分からせてやる」
「いやーん、体に分からせるだなんてそん………ごふぁ」
「…………ふー」
「中村さん、今の技は?」
「ただの手刀よ。ただ、一般人には五発叩き込んだようには見えないわね」
「五発も入れてたの!?」
「只者じゃないわね………面白くなってきたわ」
「味噌に長ネギ、豆腐………味噌汁でもやるつもりだったのか?」
「ううん、ちょっと違うの。でも、あんまり間違ってもない……かも」
「なに、その包み?」
「実家で手に入れたお肉」
「まさか、処理しきれなくなった人肉では……」
「………笠野くん?」
「ナンデモアリマセン」
「………まあ味噌汁違うんなら、大体想像がついた」
「はー、そんなんで分かるのか、お前」
「まぁ、作ったことは無いから中村さん、後は任せて平気かな?」
「あ、うん。大丈夫。後はやっとくよ」
「悪いな、ほらいくぞ、テロリスト」
「あ、笠野くん」
「ほいきた。手伝おうか?」
「ううん、邪魔だから君もあっち行ってって言おうとしたところ」
「…………アイッサー」



「なべー、なべー、おいしいなべー♪」
「新年早々、色んな意味ですごい歌だ………」
「えっへへー、そう思う?」
「笠野」
「うい?」
「奴は筋金入りのアレだから、近づいてはダメだ」
「ひどいよ!ってかアレってなにさっ!」
「とても口に出してはいえないものだ」
「ムキー!こうしてやる、こうしてやるー」
「イテテテテテ!」
「え、なんで笠野くん痛がるの!?」
「コタツの中じゃ誰が誰の足か分からんからな………」
「お、それにしても」
「あ、あうあう、ちょっ、ちょっと待」
「さすがに元運動部なだけあって肉付きがよろしぐっ!………ったぁぁ………」
「人の家で無関係な人にセクハラするな」
「えー、だってぇ、ウチのダーリンとどこが違っ………」
「さて、ちょっと鍋の応援に行ってくる。笠野、ここを頼んだ」
「………なんか人が出してはいけない声が出たけど、大丈夫なん?」
「しばらくしても目を覚まさなかったら、窓から捨てといてくれ」
「え?」
「返事は?」
「あ、アイアイサー」
「いい返事だ」


「う…………」
「あ、気がついた」
「………いい匂い」
「食欲かよ」
「………笠野くん、なんで君がココに」
「君が新年鍋パーティーに招待してくれたからだよ………」
「あ、そっか」
「ってか、いつもこうなん………?」
「なにが……?」
「君と彼」
「まあ、だいたいこんなんで………たまにやさしい、かな」
「ほう」
「お菓子くれる」
「………やっぱり食欲なのか」


「できたぞー」
「できたよー」
「おー!」
「待ってましたー」
「鍋の方は予想通りぎゅうぎゅうになったがな………」
「ぎゅうぎゅうー!」
「牛牛ー!」
「牛じゃなくて猪なんだけど……」
「猪ー!」
「いのししー!」
「食欲の前にもうワケ分からなくなってるな。こいつら」
「新年からお鍋ってのも珍しいからね」
「よし、食べようぜ」
「それでは!いただきまー」
「ちょっと待て」
「えー」
「一体全体どうしたんだい、ジャック」
「誰がジャックだ」
「ポールだよね?」
「もはや何の話だ………ああ、笠野は普通に食っていいぞ」
「わーい、いただきまーす」
「私もいただきまーす」
「わーん、私がなにしたのさー!」
「お前には俺がよそってやる。ほっとくと肉ばっかり食べるからな、お前」
「え?」
「新年だからな。たまにはいいだろ」
「今年はいきなり優しいね………って、ちょっとちょっとお前さん」
「なんだ、ってかお前さんってなんだ」
「なんでみかんばっかりよそうのさ」
「どっかのバカがたたでさえ小さい鍋に余計なもの入れてたからだよ」
「えー、普通お鍋に入ってる」
「ワケあるか、バカ野郎。お前はこれ一皿食べ終わるまで争奪戦参加禁止」
「ぶー!」


「うー………みかん美味しくない」
「あー、いのししは美味しいなぁ」
「味噌もちょっと酸味あるけどまずまずってとこだな」
「持ってきた甲斐がありました」
「うわーん、みんなひどいよー」
「お前は今年こそ、もうちょっと自分のやったことを振り返ろうな」
「ちくしょう、こうしてやるこうしてやる!」
「イデデデデ!」
「え、また笠野くん!?」




[終]

[ In the Snow "Returns" ]