「In The Snow "Returns"」
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)



「あ、いたいた、なかむらさーん」
「あら、どちらさま?」
「………ついに記憶喪失ネタできましたか」
「そんなかわいそうな顔には覚えがありませんことよ」
「もっと笑顔でいて欲しいなんて……正直にいえばいいのぶげぇ」
「あら、なぜか手が勝手に♪」
「ぐ………体は覚えているって奴か」
「便利ね。で、冗談は置いといて」
「はい」
「帰ろうっと」
「ちょっと待ちなさい。そこゆく不良少女」
「誰が不良少女よ」
「そういう時は、「何か用?」って怪しく微笑むのが相場だろ!」
「怪しく微笑まなきゃダメなの?」
「笑い声はウフフだね」
「なんでそんな君のいかがわしい妄想ワールドに貴重な時間割いてやらないといけないのよ」
「妄想ワールド指定!?」
「男なんて皆狼よ………」
「その男を片っ端から千切っては投げる君は一体………」


「で、相変わらず私も暇ではないのだけれど、なに?」
「ああ、これあげようと思ってさ。はい」
「箱型………ってことは、爆弾?」
「言うに事欠いてすごいこと言ったね、今」
「だって、笠野君だもん」
「どういう意味か理解したくないんですけど」
「しない方がいいよ、きっと」
「うぅ………」
「別に中から音はしないねぇ」
「頼むからホントに疑わないでください」
「開けてもいいの?」
「いいよ」
「開けた瞬間にボン、ってタイプか……どれどれ」
「まったく………ひどい言われようだ」
「んー……これは………クッキー?」
「差し支えはないかなと思って、オーソドックスなものを」
「…………餌付け?」
「しまいにゃ怒るよ、中村さん」
「怒ったくらいで勝てると思う?」
「………いいえ」
「でも、どうしてこんなの突然くれるの?誕生日まだだけど」
「あのねぇ………」
「?」
「一応今日、ホワイトデーなんですが」
「あれ?」
「どしたの?」
「私、笠野君になんかあげたっけ?」
「………君の素直な気持ちを」
「反吐が出るね」
「即答…………」
「覚えてないなぁ………笠野君なんかにあげた覚えはないんだけど」
「なんかに、って………当日じゃないけどピロルチョコくれたろうよ」
「ああ、あれ。あれ勘定に入るんだ。今度から覚えとこ」
「なんか今度からすごいのが来そうだ………」
「来ないって断言されるよりはマシだと思うけど」
「精一杯の譲歩って感じがするのは気のせいですか……」
「幼馴染としての義務よ」
「ま、一応もらったものは返すのが礼儀ってもんだろ?」
「じゃあ、この前貸した500円早く返して」
「し、しまった……都合よく忘れてたのに!」
「今、「借りました」って書類作るから、ちょっと待っててね」
「何でこういうときだけ笑顔………」


「しかし、バレンタインに比べると、ホワイトデーって地味だよね。ぽいっと」
「ちょ、せっかくあげたものを投げるなよ」
「もらった時点で私のものだよ」
「う、確かに正論だけど」
「笠野君以外にこんな失礼なことしないけどね」
「やっぱり………まぁ、結構面倒だからね、お返しってのを選ぶのが」
「その前にもらえない子が大多数………」
「中村さん」
「はい、言わなかったことに」
「よろしい」
「でも、お返しかぁ………熱烈なアプローチのお返しって悩む?」
「ピロルチョコしかもらってない身としてはなんとも……」
「ついでに熱い拳をあげよう」
「いりません」
「いやね、同じクラスの児島さんなんか弓道部だから張り切って特大ポッキーにチョコ塗って矢の形させてさ、本当に片思いの彼めがけて撃ってたんだけど」
「死人がでなかったのが不思議………というか、トラウマにならなければいいけどな、その彼」
「そんなに迫られたら男としてはどう?」
「中村さんだったら別に良いけど」
「そんな恥ずかしげもなく言うなよ、気色悪いだろ」
「言わせといてひどいよ、それ」
「仕様、仕様」
「でも、あんまり興味ない子にもらったらお返し困るかな」
「面倒になって、フツーに返さないの?」
「ダメだよ、男心が分かってないな」
「分かってても嫌でしょ………じゃ、どうするの?」
「そうだな………野球部だったら丸くてでっかいマシュマロを投げ返すとか」
「女の子に食らわせる時点で失礼だよね」
「まぁ、そだろうね」
「ってかその前に食べ物を粗末にしちゃいけないよ」
「もとはといえば、中村さんが言い出したのでは………」
「でもその法則だとカーリングとか乗馬とかじゃなくて良かったよね、彼氏」
「その前にそんな部活はウチにない………」



「まぁ、ありがとう。帰ってハトにでもあげるよ」
「そこまでイヤですか」
「というか………その」
「?」
「なんでこんなマトモなのを返してくれるかな…………」
「え?」
「いや、なんでも」
「あ、なに?照れてるの?」
「ううん、処理に困っているの」
「…………」
「で、無駄な時間はこのくらいにしてそろそろ私は帰るけど、今日はどうするの?」
「どうする、って?」
「………ついてくるの、来ないの?」
「敢えて言わせたいなんて、意地悪だなぁ」
「ばいばい」
「ちょ、お待ちなさい」
「ほら、五秒で支度する」
「あいかわらず人使いが荒いんだから………」
「笠野君ってさ、一言多いよね」
「好奇心ゆえのサガ、ってヤツさ」
「なんか違うような気もするけど………」
「はいできたー」
「男の子は支度が楽でいいよね」
「帰りの支度は大差ないと思う」
「さて、今日は何奢ってくれるのかなー、楽しみだにゃー」
「っ!?」




[終]

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