「ACアダプター」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)



「あ、おかえり〜」
「……何してるんだ?お前は」
「むっ。あいさつを無視したな」
「……ただいま。これでいいんだろ」
「なんか投げやりだぁ」
「そんなことより、人の部屋で何をしているんだ―――っていうかどうやって入った」
「もちろん、この合鍵で」
「お前にそんなものをやった覚えはないんだが」
「うん。こないだ来たときにこっそり作っ…………いったぁ!本気でぶった〜」
「当たり前だ!ったく、これは没収する」
「あ〜。せっかく作ったのに」
「やかましい。勝手にこんなの作りやがって」
「だって合鍵くれないんだもん」
「お前に渡したら俺の安息がなくなる」
「おとなしくしてるから大丈夫だってば」
「ほう。これだけ部屋を荒らしておいて、よくそんなことが言えるな。この口は」
「い、いひゃい〜。ほっぺたひっぴゃらないへ〜」


「で、お前は何をしていたんだ」
「ふっふっふっ、実は家宅捜索を……冗談だってば、やだな〜」
「こぶし見るなり態度変えたな」
「グーは痛いんだよぉ」
「なら殴られるようなことしなければいいだろう」
「うう。愛が足りない」
「そんなことより、さっさとココに来た用件を言え」
「あ、そうそう。コンセントを借りようと思ってたの」
「何だって?」
「だから〜、コンセントだよ」
「……お前の家には電気がないのか?」
「そっちじゃなくて、差し込むほうのやつ」
「ん? 延長コード、じゃないよな?」
「違うってば。ゲームやるときに使うあの黒いやつのことだよ」
「ああ、あれのことか。あれはな、アダプターというんだ」
「私んちではコンセントなの!」
「……まあいい。それで、なぜウチをあさっていた?」
「それがね、昨日のことなんだけど。家で古いゲーム機を見つけたの」
「本体が赤と白のやつか?」
「それそれ。それで久しぶりにやろうかな〜、って思って準備してたんだけどね」
「アダプターが壊れてたか?」
「ううん。落っことして壊しちゃった」
「――――ほう」
「それで、仕方ないからあきらめようと思った、まさにその時!」
「人を指差すんじゃない」
「キミが同じゲーム機持ってたことを思い出したのよ」
「それで部屋の中をあさっていた、と」
「そ〜ゆ〜こと」
「念のため聞くが、それは本気で言ってるのか?」
「う、いや、その。勝手に入ったのは悪いと思ってるけど……」
「そのことじゃなくて――――いや、見せたほうが早いか。ちょっとまってろ」


「これ、見覚えあるだろ?」
「あ〜!これって私の指輪だ。何で持ってるの?」
「やっぱり忘れてやがったな」
「?」
「ついでにコレも見てみろ」
「何、この紙。……『借用書』?」
「そう。それの名前のところ見てみ」
「あ、わたしの名前だ。それにこの内容は……」
「思い出したか?」
「え〜っと。確か、半年くらいまえだっけ?」
「ああ。『暇だからコレ貸して〜』ってこの指輪が担保だって言って、俺のゲーム機強奪していったろう」
「ってことは、私の家にあったのは……」
「俺のってことだ。そして、それを壊したということは」
「弁償するの?」
「この指輪、売ったらいくらになるかなぁ」
「ちょっとタンマ。それはご勘弁を、ダンナ様」
「だれがダンナ様だ。人のもの壊したお前が悪い」
「うぅ」
「と、言いたいところだが」
「ほえ?」
「間の抜けた声を出すな。―――あのゲーム機だが、元々捨てようと思っていたものだからな。捨てる手間が省けたようなもんだ」
「ってことは、それじゃあ」
「弁償はしなくてもいい。指輪もお前が勝手においていったものだからな、返す」
「やった。ラッキー」
「それと」
「え、何?」
「ついでだ。ほれ、アダプター」
「えぇ!? 何であるの?」
「見た目は同じだが別機種のものだ。使えるからもってけ」
「…………あやしぃ」
「なぜそこで疑いの目を向ける?」
「なんでそんなにサービスいいのさ」
「サービスも何も、これはお前が俺にくれたもんだぞ。前の誕生日に」
「そんなものあげたっけ?」
「中古屋で買ったものを大量に送ってきただろ。ったく、やった本人が忘れるなよ」
「ん〜。ま、いいか。結果的に助かったわけだし」
「俺としては残りの処理に困るがな」
「あはは。気にしない、気にしない。それじゃ、コレもらってくね〜」
「あ、おい!――――速すぎだ、もう見えなくなった」


「…………で、この部屋は俺が片付けるのか?」




[終]

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