「こたつ」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)





「こ〜んに〜ちわ〜」
「今いそがしいから、来年にしてくれ」
「まだ半分以上残ってるのにっ!」
「じゃあ大晦日にまけてやろう」
「なんか偉そうだよ。しかもたいして変わってないし」
「細かいやつだな。それはさておき、今日は何の用だ?」
「別に何も?」
「本気で不思議そうな顔しやがって……」
「私はいつでも本気だもん」
「余計にタチ悪い……」

「で、何してるの?」
「見ての通りだ」
「こたつだねぇ」
「こたつだな」
「うわ、ほこり詰まってる」
「冬の間ほったらかしだったからな。しまう前に分解して掃除しとかんと」
「なるほど」
「ほこりが舞うから、ちょっと離れとけ」
「りょ〜かい」

「このネジを外して……次はこれか」
「前からコードとかは外してたけど、なんで急に片付けてるの?」
「うちに入り浸るやつが、お菓子を勝手に積み上げていくから」
「そうなんだ〜。大変だね」
「……誰のことかわかって言ってるんだよな?」
「私、ちゃんと片付けてるよ?」
「そもそも人の家を散らかすな」
「これしまったら、ご飯のときどうするの?」
「そこのミニテーブル使う」
「え〜。あれだとこのお菓子、半分しか乗らないよ」
「だから乗せるなって言ってるんだよ!」

「あ、そうだ!」
「今度はどうした。っていうか分解したパーツで遊ぶな」
「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「断る」
「まだ何も言ってないよ!?」
「どうせロクでもないことだろ」
「そんなことない! そうやってすぐ決め付けるのは良くないよ」
「わかった、わかった。これ外すまで待っとけ」

「それで、お願いってのは?」
「うん、これ貸して欲しいの」
「……こたつの足に見えるんだが」
「私にもそう見えるよ」
「まあいい。それで、そんなもん借りてどうする気だ?」
「私の家のこたつ、一本足がなくなっちゃったの」
「何をしたらそうなるんだよ」
「家出……とか?」
「ああ、なるほど。そいつはたいへんだー」
「うわぁ。すっごい適当だ」
「そもそも、お前に貸すと返ってこなくなるだろう」
「そんなことないもん。ちゃんと春になったら返すよ」
「俺も冬になったらまた使うんだよ!」
「大丈夫、ちゃんと毎日持ってきてあげるから」
「毎日入り浸る気かよ」
「つまり、今まで通りということだよ。問題なし!」
「なぜ胸をはる」

「というわけで、これ貸して」
「家のどっかにあるだろ。というわけで、これは貸さない」
「頑固ものめ〜」
「お前が不精なだけだろうが」
「でも、ちゃんと探したんだよ」
「最後に使ったときのこと思い出せばわかるんじゃないのか」
「ん〜、この前ヌンチャクごっこしたときが最後だったかなぁ」
「……10歳くらい年齢サバ読んでないか、お前」
「そんなに大人っぽい?」
「幸せ者だってことは良くわかったよ……」



「おかえり〜」
「また勝手に人の部屋に……」
「ほら、今日はジュース買ってきたよ」
「どんだけテーブルに乗せる気だ」
「だってこたつがなくな……あっ、こぼれた!」
「……こたつ出すか」



[終]

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