「名護くん日常閑話 〜ニラニラレバレバ〜」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)




「名護君日常閑話 〜ニラニラレバレバ〜」


「……名護、おかしくね?」
「確かに。ギナンさんは自分で言うほど中国人っぽくないな」
「アチッ…………アイヤー」
「……いやまあ。俺もエセ中国人だとは思うが。俺が言いたいのはそうじゃない」
「中華屋なのに赤嶺がジャージ姿で給仕してることか?」
「確かにそれも変だが……」
「この前はコンビニでもあの格好でバイトしてたぞ」
「俺は角の本屋で見かけた。服務規程とかないのか、この商店街」
「どこも個人経営だからなぁ」
「それはさておき、おかしいってのは店員のことじゃない」
「つまり?」
「これ見てみ」
「普通のレバニラ定食だな」
「違う」
「大盛りにしたっけ?」
「いやいや、そういうことじゃなくって。メニュー見てみ」
「『ニラレバ定食、680円』」
「そう。これはレバニラじゃなくてニラレバなんだ!」
「……すいませーん。杏仁豆腐2つ」
「スルー!?」


「で、名前がなんだって?」
「これだから目玉焼きにケチャップかけるやつは……」
「ポン酢かけるやつに言われる筋合いないぞ」
「まあいい。俺が言いたいのはニラレバはレバーが主役ってことだ」
「レバニラは違うのか」
「あれはレバー入りニラ炒め。これはニラ入りレバー炒め。つまりメインはレバー」
「後ろにつくほうが重要、と」
「だってそうだろ。そのレタスチャーハンがレタスだらけだったらどうだ?」
「サラダっぽくなる」
「そう。もはやチャーハンとは呼べない代物になるってわけだ」
「その理屈だとたこ焼きは焼きがメインになるな」
「調理法は別の話。それは最後でいいんだよ」
「いいんだ」
「野菜炒めとか茶碗蒸しだって同じだろ」
「焼きそばってのもあるが」
「そば焼きだと言いにくいだろが。だから焼きそばいいんだよ」
「いいんだ」
「それでだ。俺が何を言いたいかといえば……」
「杏仁豆腐お待たせ〜」
「お、来た」
「はい、二人ともどうぞ」
「赤嶺。それ両方こっち」
「え? 二つ? 杏仁豆腐を?」
「もちろん」
「甘いもの好きなんだよ、こいつ」
「人並みだろ」
「へぇ〜。まぁ、私も甘いの好きだしね。太っちゃうから滅多に食べないけど」
「やっぱり気にするものなのか」
「もっちろん。これでも色々と気を使ってるんだよ」


「それじゃ、ごゆっくり〜」
「……あの格好で気を使ってるって言われてもな」
「ああ。笑うべきか一瞬迷った」
「……で、何の話してたっけか」
「世界平和とエネルギー問題について」
「そう。ニラレバだ」
「会話のキャッチボールしようぜ」
「俺はレバーを食いたいから注文したんだよ。でもほら、これ」
「ほぼニラだな」
「だろ? これじゃあニラレバとは言えない。そう思うだろ」
「狩俣の言った定義に従うと、レバニラになるのかな」
「その通り。注文したものとは違うものが出された。これは深刻な問題だ」
「確かに美味いな。この杏仁豆腐」
「会話がつながってないぞ」
「お前が言うのか、それ」
「まあいい。つまるところ俺が言いたいのは、俺は注文したものを食べられなかったってことだ」
「半分以上食ってから言うことでもないな」
「それはまあそれとして。これで素直にお金を払うのはおかしいと思う」
「ごちそうさま」
「とことん人の話をスルーか」


「それで結論は?」
「財布忘れた。金かして」




[終]



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