「写真屋放浪記 #02:「少女」」
著者:白木川浩樹(とぅもろー)




「少女」

 相棒は背負い鞄とカメラだけ。
 さあ、今日はどこへ行こう。
 
 
『争いは何も生み出しません! 人々は愛をもって生きるべきなのです!』

「なあ、おばちゃん。ちょっと聞きたいんだが」
「年なら教えないよ。これでも看板娘なんだからね」
「そいつは残念。――それはそうと、アレはなんなんだ?」
「アレ……? ああ、あの娘のことかい」
「町の入り口でも見かけたが、流行っているのか」
「一ヶ月くらい前だったかな。ふらっといきなり現れて……アンタと同じだね」
「流れ者か。それにしてはずいぶんと小奇麗だが」
「『愛と平和』を説いて回ってるんだとさ。あたしにゃよく分からないが、若い連中はこぞって集まってるんだよ」
「へぇ」
「興味あるのかい?」
「写真屋だからね」
「なんでも生まれ故郷の村が昔は戦争をやってたらしくてねぇ」
「それで各地で平和布教ね。なるほどなるほど」
「若いのに苦労してるみたいだしね。この町の人は色々と援助してあげてるのさ」
「俺も苦労してるんだ。援助してくれないかな」
「はっはっはっ! いいねぇ、売れ残りでよければあげるよ」


「こんちは」
「あら、こんにちは。あなたは?」
「ただの通りすがりだよ。一言礼を言おうと思ってね」
「お礼、ですか?」
「おかげで腹がふくれた」
「はぁ……?」
「せっかくだから、一枚撮らせてもらってもいいかな?」
「まあ! 写真屋さんなんですか」
「ん? ああ。写真に興味あるのか?」
「あの……写真を売っていただけないでしょうか?」
「そういう商売だから構わないが……ここに来る前に街で良いのは売れちまった」
「もっと戦争の悲惨さを広めたいのです」
「そういうことか。そういうのならまだ何枚か残ってたな。…………あった、ほら」
「……うっ」
「ちょっと刺激が強すぎたかな」
「いえ……、大丈夫です。おいくらでしょうか?」
「お礼がわりだ。ただで良いよ」
「あ、ありがとうございます!」

「――それで、この町に」
「そうなんです。皆さん私の話を真剣に聞いてくださるんですよ」
「いつから君はこんな旅を?」
「15になった日からです。もう3年になります」
「すごいな。俺はその頃はろくな事やってなかった」
「愛さえあれば、いつからでも平和は生み出せますよ」
「……へぇ。それはそうと、君の村は今は平和に?」
「ええ、とても。私のおばあさんのおばあさんの、さらにおばあさんが生まれた年に戦争が終わったらしいです」
「それからはずっと争いはなかった?」
「はい」
「戦争が起きてる町に行ったことは?」
「まさか! そんなの危ないじゃないですか」
「……そうだな。そのとおりだ」
「この町はとてもいい所です。平和で、穏やかで。人々はみんな親切なんですよ」
「そのみたいだな」
「もうすぐ冬ですし、暖かくなるまで滞在しようと思ってるんです。写真屋さんはどうなさるのですか?」
「さあ。とりあえず写真撮って、どこかで売ると思う。さてと……」
「もうご出発ですか?」
「ああ、もう用はないからね」
「そうですか」
「そうだ。最後に一つ聞いてもいいかな?」
「なんなりと」
「この町で、記録紙を売ってる店はあるかな」



[終]



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