057 "眠れない"


 階段を降りて

 たどり着いた 薄明かりの中で

 水を汲み

 冷蔵庫の静かな胎動を横に

 口付けた水は 少し 甘くなる


 蛍光塗料の文字盤は 午前二時

 今日も遠いどこかから

 釘を打ちつけて 唱えられる呪いは二十日目を迎え

 親の金をくすねる少年の 小さな完全犯罪は成立する


 溜息吐けば 一滴 滴り落ちて

 「助かりたい」などと 苦し紛れの嘘を 独り言

 コップの水を継ぎ足して

 今日も静かに 夜を聴く


 誰もが誰も 秘密を抱いて彷徨う時代だから

 それは まるで泥のように眠る私の横で

 絶え間なく流れ続ける ラジオノイズ


 今日も長い一日が

 終わらずに 始まる

 私は今日も 成仏できず

 階段を降りて 夜を聴く