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辺りは異様なほど静まり返っていた。
『もう少しテキパキ動いてくれると期待していたが、所詮は『役立たずの出来損ない』だったわけだ…』
ピュアレアの赤い髪が風に揺れる。シフォリネイテと二人を風は持ち上げ、やがて風は激しく二人を包み、そして二人を無理矢理、圧縮していく。
「ッ!」
改たちには何が起きているのか理解できなかった。
風は二人を圧縮していく。その過程に鈍い音が響く
ミシ、メキッ!バキッ!骨が徐々に折られていく。
グシュアァァ!肋骨が俺内臓に刺さり鮮血を流していた。
ピチャリ!改の頬に血が当たった。改は気にする事無く事態を厳しい眼差しで見ていた。
ジンはただその異常な光景を唖然として見ていた。
香澄にはとても耐えられるものではなかった。彼女は手で顔を覆い、下を向いている。その中で泣いているのだろうか。誰にも分からない。
風に囚われた二人は形を失い球体を成していく。
ブシュゥウゥ、メキ!ゴキ!…………
やがて、音は穏やかになり強風があたりを吹き抜けていた。
中空には赤い、血のような真紅の球体だけとなった。大きさは改の手に握られているクランベリープリンセスと大差がない。しかし放つ光は禍々しかった。
「どうです、ラウゼン?そこの石を模して作ってみたのですけど」
いつから居たのだろうか、エメラダの後部座席の背もたれに腰掛けるようにして、銀色の髪をした女がいた。そして真紅の石を手招きするように手繰り寄せ、手のひらに転がした。
「悪趣味だなシルバ、そして最悪の所業だ」
ラウゼンと呼ばれた老人は深い皺をさらに深くするほどの苦い顔をしていた。そして女を見ようとはせずに、改の居るところへ歩み寄った。
「若いの、この馬鹿弟子を起こしてここから逃げよ」
ラウゼンはミルを改に預け、そして続けた。
「その石と、この娘を奴に渡すのだけは避けねばならない。その力は個人の私利私欲に使われるべきものではない。…ミリアベルに伝えよ。その石を己の魔力と共に封印せよと…」
ラウゼンはそう言って、シルバの方へと向き直り、そして構えた。
「別れの言葉でも言ってたのかい?老いると話が長くて困るねぇ」
シルバは腰を上げると石を手のひらで弄びながら、エメラダから降りてきた。
改はこの異様な状況に戸惑った。
(あのじいさん、死ぬ気!)
直感だった。改からすれば得体の知れない二人、明らかにラウゼンからは覚悟のようなものを感じ取っていた。おそらく自分の与えられたことの意味は大きい。
「ミル!起きろ!」
思い立った瞬間には目の前に抱えているミルに声を掛けた。が、反応がない。
「ジンさん!香澄!手伝ってくれ」
「え!あっああ」
意識を朦朧としていたジンは改の声に反応して我にかえった。
香澄も目の辺りを真っ赤にしながら改の声に気付きこっちを見て怯えながらだがゆっくりと四つんばいになりながら来た。香澄はだいぶ参っていた。まさか目の前で人がつぶされる光景など、誰が事件に首を突っ込んで予想できただろうか。香澄は自分は医者の仕事だけを全うしながら生きようと、反省していた。
「二人ともここからミルを連れて逃げてくれ…」
改はミルをジンに預ける。
「おい、お前はどうするつもりだ」
「ちょっと野次馬根性で戦いに挑もうかな?」
改は不安に怯えている香澄に笑顔を見せて言う。
「なんだよ、あの強気の競馬好きはどこ行ったんだ?」
次の瞬間、改に向かって正拳突きが飛んだ。が当たる直前で止まった。
「うるさいな…あんたなんかボロボロにやられちゃえばいいのよ!それで後で治療費がっぽり貰うんだから……だから死ぬんじゃないよ」
香澄は再び泣きそうになるのをこらえて言った。
「分かったよ。それじゃぁ、この石も預けるよ…それとミルに伝えてくれ。この石と魔力を一緒に封印しろって、じいさんが言ってたって」
香澄にクランベリープリンセスを手渡し伝言を伝え、改はすっと立ち上がる。
「気をつけろ、まともに太刀打ちできるわけないんだ。頭使えよ」
ジンはミルを負ぶり立ち上がり、香澄も次いで立った。そして改はラウゼンの元に駆けていった。二人はそれを見届けてこの場を離れた。
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