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闇の中に一人。
否、二人。
ぼんやりと宙を漂う光球に照らし出された顔は、二人とも微笑、というには少しゆがんでいた。
「…………どういうつもりだい?」
余裕のある苦笑いを浮かべた青年は、紅く染まった傷口を隠すようにして、腕を組んだ。間違いなく、まとう白い法衣に広がる紅い染みは彼自身のものだ。
「………」
相手の男は何も言わず、ただ、黒い布から覗く鋭い瞳を光らせたまま、両手にナイフを握る。
目の前の男が、「通常の人間の致命傷」くらいでは死なないのは分かっていたから。
それこそ、細切れにして燃やすくらいの覚悟がなければ完全に抵抗をやめないだろう。
「何か、言ってもわらないと困るよ。エストスリ君」
「ドランブイ………いや、アンゴスチュラ」
「おや、教主の名を呼び捨てとは、いい度胸だね」
そういうドランブイの顔も、なぜか嬉しそうにゆがむ。
「殺すのに、ためらいはいらなくなった、と考えてもいいんだよね?」
「………あれが、お前の望んだことか。我らを犠牲にしてまで得ることか!」
「さあね。結末までは予想しきれない。僕はただの"イレモノ"だからねぇ」
軽く笑って流すと、ドランブイは一歩前に出た。
「僕の腕を、解いてごらんよ。そうしたら、答えを教えて殺してあげる」
手を使わない。
すなわち、神力すら使わない、ということだ。
「ほざけッ!」
ナイフが一閃。闇を切り裂いた。一直線にドランブイめがけて軌跡を描く。
「うん、悪くないんだ、コントロール」
しかし、ナイフは彼をぎりぎりで掠めて背後の壁に突き刺さる。
「はああああぁぁぁっ!」
転瞬で間合いを詰める。
「でも」
交錯する………刹那。
突如上から舞い降りた黒い翼から、白刃がきらめいた。
「周りがいささか、見えていないね」
事態は、次の一瞬で全てカタがついた。
放たれた六つの刃を受けながら微動だにしないドランブイ。
そして、黒い鎧に身を包んだ騎士が真紅の剣を振り払う。
派手に血を吹いた体と首が、静かに石畳の上に転がり落ちる。
「………醜き我が同胞よ。汝の決意、覚悟、しかと我が傷に刻み込んだ」
両腕を解いたドランブイの掌に、炎が集まり、その炎が放たれたたいまつのように、倒れたエストスリの体へと燃え移る。
「紅蓮の絆、血鎖の呪縛を以ちて、ここに悲劇の神の兵となれ……無限の呵責に苛まれ、散りて、来世に蘇るが良い」
その赤い炎は、瞬く間に彼の体を燃やしつくし、後にはいくばくかの灰と、煙の匂いだけが残る。
「………よかったのかよ、ドランブイ」
黒い騎士が、くぐもった声でつぶやいた。
「ま、連合軍もまだ到着してないようだしね。"ベルランス"が介入するまでは、僕一人でもどうにかなるよ」
「…………」
「君だけは、裏切らないと信じているよ。カンパリ?」
「………ああ」
短く切って捨てると、カンパリは見慣れた廊下を消えてゆく。
「…………」
その後姿を見送ると、全てのナイフを抜き終えたドランブイも、その場から風のように消えた。
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