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「どうだ?何か分からないか?」
「そんな久しぶりに会ったんだから、他の話しようよ〜。それとも何?私を捨てて他のいい女と付き合ってたりするの?ひどい!ひどいわ!!私と言うものがありながら……うっうっ」
「お前、最近変な物食べたのか?性格変わって来てる気がするぞ」
啓は二週間ぶりに睦葉に会いに来た。もちろんそれなりに覚悟をして。
「どう?動揺した?」
(いろんな意味でね………)
「で、見覚えがないか聞いてるんだけど?」
「そんなにピリピリしているとハゲちゃうよー。この年でハゲたら彼女できないよー。もっと気楽にしようよ」
「だから俺を苛立たせようとしてるのか?」
「そんなんじゃないよ、ねぇ、何か話しようよ」
「悪いがそんな気にならない。教えてくれないならもう帰るよ、邪魔したな」
「………待って………」
啓は病院を後にしていた。その足取りは決して軽いものではなかった。
「何でだ………何故こんな事になってしまったんだ………」
ふと病院の方に向き直ったが再び歩を進める。
「これじゃあこの先どうしたらいいか………」
「………待って………」
席を立とうとした啓に睦葉は小さく弱々しい声で言った。
啓もその口調の変化に違和感を覚え、再び席に着いた。
「どうしても言いたくなかったの………」
睦葉は続ける。
「あの事故以来からね、少しずつ、少しずつなんだけど……ね」
睦葉は伝えなければという思いと、出来れば言いたくないと言う思いの矛盾に口をつまらせる。
「………干渉が出来なくなってるみたい……見えないの。前みたいにははっきりと日との記憶が見れないの。まるで曇りガラス越しに見てるみたいにしか分からないの」
睦葉は瞳に涙を抱えながら答えた。
啓の表情は変わらない。まるで鉄面皮のように。だが、その表情は鉄の冷めたようなものではない。この状況をどう把握し、どんな態度をしたら良いか分からない。何も考えられないからだった。
「ごめんね……本当に、ごめんね」
睦葉の頬を伝うものがあった。
「そんな……謝ることじゃないだろ……そんな能力のことは気にするなよ」
「う……ん………あ」
睦葉の頬を伝い落ちる物は止むことなく一層量を増していた。
「何……でだろうね。私なんか、よりも啓の方が……辛いのに………ね」
啓は彼女の大粒の涙の訳を大体察しはしたがどうしようもない、仕方なくポケットの中からハンカチを取り出し、手渡した。
「……あり、がと……」
睦葉の涙は止まることを知らないかのように流れ出ていた。そこへ、ハンカチを当て睦葉はふさぎ込んだ。
啓からは彼女の顔を見なくても様子が手に取るように分かった。それゆえに何かしてやることがないことも容易に理解した。
「……なぁ、そんなに気を落とすなよ。そのうちも度に戻るだろう。きっと事故のせいで疲れてるんだよ。俺はそろそろ帰るよ」
啓は病室から出ようと出口に向かった。
睦葉からは返事はない。
「また来週にでも、会いに来るよ」
そう言って啓は睦葉のいる病室を後にした。
「考えても、しょうがないか。これは俺の問題なんだ。頼りすぎた俺にも非があるんだ」
啓は病院の敷地を後にしていた。歩んでいる先は家ではなかった。啓は決意を秘めた眼差しで、ある所へ向かった。向かう先は新都市開発予定地………。
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