−4−
退院して初めての日曜。
啓はまだ顔を合わせる決心もつかずにいた。今日は部の方の活動も午前で終わり、啓は睦葉の言っていた、月の良く見える高台か広い所を探しに出かけた。
この地域の高台と言うと、睦葉が受けた女子校の裏手に自然林のある丘、広い所は新都市計画だなんだの予定地指定になった辺りにまだ何もないだだっ広い平地、他にも高層のビルなんかが思い当たるがそこには絶対にないと少なくともそう断言できる。自然のない空間には啓の探し求めているものは決して存在しないからだ。
「この2カ所にしぼっても場所が正反対の位置にあるし半日程度じゃ片方だけでも調べ切れそうもないな」
ふー、と溜め息を吐いた。
「根気強くやっていくしかないか」
誰に言うでもない、只の一人言。
そして、ゆっくりと歩きはじめた。
最寄りの駅から各駅停車で二十分、そこからバスで二十分の所に睦葉が受験した女子校はあり、そこから更に十分程歩いて例の目的地である丘まで来た。
ふともに着いたのはいいが、丘と言う表現を逸脱しているように思えるほど大きく、木々が茂り、山に近いと啓は思った。
「自然林があるって野放しのことなのか」
茂みのすき間をぬって少しずつ中へ入って行く啓。周辺の住民が子の姿を見たら一体何を思うだろうか。
そんな事はおかまいなしに進んでいく。
この時期は様々な種の虫が目覚めて活動をしている。蜂なども例外なく動き始めている。
それを知ってか、知らでか啓はおかまいなしに進む。普通の人なら近づくのさえ尻込みする所を。
……どの位進んだだろうか。木々の向こうから光が射し込んでいるのが啓の目に入った。
啓はそこを目指して進んだ。そこに何かあると信じて。
そして着いた先は、只単に木がなくなり一面膝下ほどの雑草が生い茂っているだけだった。
何だ、と言いたそうな顔つきで啓は肩を落とした。
そして一休みも兼ねて雑草達の上に乗っかるように体を預け横になった。
「あー………気持ちいいな。日射しも強すぎず植物たちにも快適だな」
啓は仰向けになって瞼を閉じ、赤い景色を見ながら思った。
「……でもここじゃないのかなぁ、木や雑草ばっかりで花どころか雷もない……来週はどうしようか、ここか新都市計画のあの広場に行くか?」
啓は温かい光に包まれながら考えていたが徐々にその思考は空の彼方へとさらわれていた。
……………時間が経ち、日がもうじき沈もうとしていた。
啓はそんな事露知らず未だ寝ていた。
そこへ人影が……啓の目の前に表れた。
人影は何も言わず啓の肩を叩いた。
「うーん、何………!?」
啓はゆっくりと目を開くと人影と目が合った。思わず声を出して驚きたかった。
人影の顔は彫りが深く髭は無精を通り過ぎ立派な長さ、少々強面で肩には何かを担いでいるようだ。
「こんな所で何やってるんだい?風邪引くぞ」
強面のその男は不思議そうに聞いた。
「あっ………ははは。捜し物してたら寝ちゃったみたいです」
啓は少し慌てながらその事情を説明し、立ち上がった。
「こんな所で探し物かい。君は変わり者だね」
「そんなおじさんこそ、何でこんな時間にこんな所にいるんです?パッと見はホームレスみたいだがど雰囲気違うし」
啓は自分の思ったことを素直に言った。
男は困った顔をしている。
「う〜ん、家はちゃんとあるんだけど、似たような生活かな。髭剃買うお金を惜しむような生活だからね」
「で、家があるならここで何してるんですか?」
「ここにはね、月を見に来てるんだよ。特にこの広場からはとても見晴らしがいいんだよ。もうじき暗くなると綺麗に見えるよ。一緒に見ないかい?」
男は自慢げにそう言うと腰を下ろして天を仰いだ。
「う〜ん。興味はあるけど、今日はそのつもりはなかったから、もう帰らないと。親を心配させたくないから………」
啓は男とは逆に立ち上がり、一礼して元来たと思う道なき道へ向かった。
「君、下るんなら向こうに私が作った近道があるから、そっちを使うといいよ」
男は啓の背中にそう言うと、一点を指さした。
「ありがとうございます。それじゃあ」
「………もし、暇だったら三週間後のこの時間に来てごらん。一段綺麗な月が見れるから」
男はそう言って手を振ったが、啓はそれに対する反応はしなかった。
啓は帰りの電車の中で思った。
(変な人だったな。三週間後とか言ってたっけ、何か特別な日なのか?もしかしたら睦葉なら分かるかも………)
そして、啓は決心しないといけないと気付いた。
[第三章・第三節] |
[第三章・第五節]