−2−
『次は〜新小机、新小机〜』
その抑揚のない車掌のアナウンスで、啓は目を覚ました。
「夢、か。あの時の」
あの後、啓が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
どうして助かったのかは分からないが、二つだけ確かな事があった。
自分がほぼ無傷な事と、自分が助けようとした少女が目を覚まさない事。
その二つを知った時、啓は自分に無力さに情けなくなった。自分が睦葉をこんな目にあわせてしまった。こうなったのは自分のせいだ、と。
「ちょうど次の駅か」
座席から立ち上がり、ドアの前に立つ。
脳を含め身体にまったく異常がなかったため、彼女の母親の強い希望により睦葉は自宅療養という形で、退院する事になった。
そのときから少しずつ、母親の言動におかしな点が出てきた。睦葉は病気で寝込んでいるのだと言い出したのだ。
「新都市開発地区ってことだから、人が少なそうな方に行けばいいかな」
啓の乗っている電車はゆっくりとその速度を落とし、完全に停止してからドアが開いた。そして、そんな安直な考えのもとに、啓は足を進めた。
退院した後でもう一度あの場所に行ったが、結局そこにも啓が探しているモノは無かった。
その事実に落胆しつつも、いまだ目を覚ましていない彼女に会いに行ったとき、啓の目の前で信じられない事が起こった。
一月以上死んでいるかのように眠り続けていた睦葉が、急に目を開いて啓に向かってこういったのだ。
『何してんの?アンタ』
その後、色々な事が分かった。睦葉は自分としか話せない事、自分を通じて彼女も外の事が分かるという事、そして…。
『中途ハンパだったからね』
こんな目に遭ってもまだ手助けを続けてくれるという事。
「ここか。たしかに広さだけはあるな」
駅から歩いて十分ほどで、目的の場所に到着した。
広い平地、といえば聞こえはよいが正直な話、これではただほったらかしにしているだけの草むらである。
「駅名に"新"なんて付いてるくせに、ただのド田舎じゃないか。…そうか、だから開発するのか」
一人でブツブツ呟きながら啓は歩いていた。
しばらく歩いていると、少しだけ周りより小高くなっている場所を見つけた。あの位置からならこの辺り一体を見渡せるだろう。
時刻はもう3時になっており、気の早い冬の太陽はもう低くなってきている。
「ったく、もうちょい歩きやすくしてくれよな〜」
いくら愚痴を言っても、それを聞いているのは周りの雑草と虫だけだ。
そして、啓がその小さな丘から辺りを見渡すと、辺り一面の雑草が見えた。大部分は枯れており、茶色の中にときたま緑が見える程度でしかない。
そんな光景に少しうんざりしていた啓の目が、異様なものを捉えた。茶色でも緑でもなく、黄色があったのだ。
急いでその場所に行ってみると、そこにはタタミ一畳分ほどだが黄色い花が咲いていた。それもただの花ではない。
「これは、あの菜の花?」
学校の部室にあった、例のスケッチブックの花と同じモノが今この場所で咲いていた。
「…まさか!」
啓はその花の咲いている辺りを調べ始めた。花を散らさないように、できるだけの注意を払いつつ。
そして数分後、啓はついにそれを見つけることが出来た。四年前からずっと探していたモノを。
「ここだったのか。こんな所にいたんだ。……父さん」
[第四章・第一節] |
[第四章・第三節]