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(一体どうなってるんだ?)
あの日の後、毎日病院に足を運んだが、いくら呼びかけても睦葉がそれに答える事は無かった。
あの時、急に眠ったのは看護婦が来たせいだと思っていた。いや、そう思おうとしていた。
しかし、二人きりになっても睦葉は目を覚まさない。いつものように憎まれ口を叩く事も、自分をからかう事も無い。
そしてあの言葉。
(干渉が出来なくなってきている……)
もし完全にそうなったら、もう彼女と話をする事が出来なくなる。何も言わず眠り続ける睦葉を見ていることしか出来なくなってしまう。
(そんなの……絶対にいやだ)
その思いとは裏腹に、自分の何をすればいいのか、何が出来るのかが啓にはわからなかった。
放課後、啓はまた植物たちの前にいた。
本日最後の授業が終わったのにも気づかずに、考え続けていたら真姫に無理やり連れてこられたのだ。
「何悩んでるのかは知らないけど、そんな時は土いじりが一番!」
そういって啓の手を引っ張ってきたのだ。
「おう、駒沢。まっちゃんから聞いたぞ」
部室に入るとそこにはパイプ椅子に座った都葉がいた。どうやら啓を待っていたらしい。
「最近お前、おかしいんだって?」
誤解を招きそうな言い方だが、その顔は真剣だ。
「あ、その。今朝部長にも言ったんですけど、ただ風邪気味でボーッとするだけですから。大丈夫ですよ」
真姫と都葉がじっと啓の顔をみる。しばらくしてから二人が口を開いた。
「お前が言うならそうなんだろうな。体には気をつけろよ」
「そうなんだ、ならよかった」
二人ともあっさり信じてくれた。どうやら園芸部員はみな人が良いらしい。
「すみません」
啓は軽く頭を下げて謝った。心配掛けた事と、嘘をついたことに対して。
気にするな、都葉はそう言って自分のカバンからノートを取り出し、開いて啓に渡した。
「それよりこれ見てみろ。ついに完成したんだ」
開かれたページの上部には大きな文字でこう書かれていた。
『愛と平和のヒヤシンス部屋in東京』
一目見た瞬間、啓は石のように固まった。その後ろからノートを見た真姫まで固まってしまう。
そこにはアパートの間取りが乗っていた。普通と違うのはどこにどれだけのヒヤシンスを配置するのかがびっしりと書き込まれていることである。
そのノートいっぱいにヒヤシンスの配置が書かれていた。
「先輩…本気でこの部屋に住むんスか?」
真姫が恐る恐る尋ねてみると、都葉は嬉々として答えた。
「この間いい部屋が見つかってな、一週間掛けて考えたんだ。我ながら完璧だと思う」
よくみるとトイレにまで書き込みがある。ここまで来るともう何も言えない。
「ま、まぁ…。住むのは先輩ですからね、頑張ってください」
啓は何とかそれだけ言って、ノートを都葉に返した。これ以上みていたら本当におかしくなりそうだ。
「とりあえずこれで用事は済んだ事だし、バイトがあるから帰るかな」
ノートをしまい、カバンを背負って都葉は帰っていった。
啓と話をするのと、ノートを見せる事と、どちらがその用事だったのかはよく分からなかったが。
部室のドアが閉まる音で啓はやっと正気に戻った。
「あ、そうだ。私も今日は約束があるから帰るよ」
同じように復活した真姫が言った。どうやら啓と話をするためだけにここに連れて来たらしい。
「早く元気になりなよ。じゃーね」
そういい残すと大急ぎで帰ってしまった。
二人とのやり取りで多少元気が出てきた。啓は部活仲間達にに感謝した。
今日は自分も帰ろうと思い、机の上に置いてあった鍵を取って部室を出る。
鍵を閉めたところでふと思った。ひょっとしたらまた進平がいるかもしれない。
「ちょっと見てくか」
病院の面会時間まではまだ余裕がある、その事もあり啓は緑の友達の所へ歩いていった。
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