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一人の男が電話をしていた。
その男性は、年は50前後だろう。大分白髪が目立っている。
「ああ、そうだな」
その男は口のはしで薄く笑った。
「それはそうだが、親が子供を心配するのは当然だろう」
左手で受話器をにぎり、右手に持ったペンで目の前の書類にいろいろ書き込んでいる。
「ふっ、お互い大変だな」
電話の向こうから笑い声が聞こえた。
「それでは、仕事があるのでな」
電話を切ると、部屋の中に一人の青年が入ってきた。
「仕事に精が出ますね」
その青年は、部屋の真ん中にあった来客用のいすに遠慮なく座り、懐からタバコを取り出して火をつけた。
青年はその長い脚を組み、真っ白な煙を吐き出した。
「ま、いいことですけどね」
男はこの青年の事は良く知らない。だが、そんな事はどうでもいいと思っている。
能力さえあれば、素性など問題では無い。
男は昔からそうやって生きてきた。おそらくこれからもそうだろう。
「で、どうだった」
青年はテーブルの上にあったクリスタルの灰皿を楽しそうにいじっていた。
「ん〜。どうもこうも、あなたの予想通りでしたよ。あんまりそのままだったので、拍子抜けしちゃいましたよ」
そう言って、大げさに肩をすくめて見せた。
「そうか…」
嬉しそうな、それでいてどこか寂しそうな表情だった。
青年もこの男の事を良く知っているわけではない。
ただ、自分を上手く使いこなせる数少ない人間で、とても羽振りがいい事は知っている。
青年にとって、それで十分だった。
「で、これからどうするんです?まだこのままですか?」
それならそれで構わないが、少し退屈してきたのも事実だ。
男は額に手を当て、次の行動を考えていた。
しばらく、静寂が部屋を支配する。
青年が二本目を吸おうかとしたとき、男が口を開いた。
「まだ、このままでいい」
それだけ言うと、男は机の上の書類に目を落とした。話はこれで終わり、ということらしい。
「わっかりました。では行ってきます」
火のついていないタバコをくわえたまま、青年は部屋から出ていった。
そして、部屋の中にはペンを走らせる音と、書類をめくる音だけがなり続けた。
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