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ピピピッ、ピピピッ…
時計のアラーム音が部屋中に響いていた。
パシッ!乾いた音が時計を黙らせた。そして、布団に入っていた誠一は一呼吸置いて布団から起き上がった。
「ふぁ〜あぁ…」
誠一は瞼を擦りながらトイレへと入っていった。
「…変な夢を見たなぁ」
誠一は呟きながら食パンを袋から取り出してトースターへと放り込んだ。
焼きあがるのを待つ間に誠一は着替え始めた。その動きは慣れている。
チーン!威勢の良いラブコールが誠一を呼んだ。
それを聞くまでもなく、着替えを終えた誠一はトースターの前で待機していた。
「今日は尾下電気の会社説明会、そして卒研…」
トーストを食いながら今日の予定を繰り返した。
「そろそろ終わらせたいよなー」
最後の一口をかみ締めながら思った。
「寂しい部屋だな…」
誠一は生活に最低限必要なものしかない部屋を見てため息をついた。
生まれて21年間、とりわけ趣味もなくただ学業だけをこなしてきた。
「寂しい21年間だった…今日が誕生日とはね…」
誠一自身もそれは感じていた。刺激のない日常、裕福とも貧乏とも言えない生活。
そして、決して刺激を求めようとはしなかった。
「さて時間がない」
誠一は独り言を呟きながら洗面所で顔を洗い始めた。
「今になって後悔するには遅すぎるよな」
顎に生えた髭を丁寧に剃る。
そして最後にネクタイを締めて身形を確かめる。
「よし!」
一言気合を入れて、特に入っていないスーツケースを握り締め、この狭い家を出た。
外は7月22日なのにひどい真夏日が続いていた。
早くも蝉が孤独を恐れて儚くも泣いている。
この暑い中に背広を離せないのは就職活動の掟だろうか。
「今日は暑くなりそうだ」
腕で日を除けながら、空を見上げた。
「さ、早く行くか」
誠一はまだ説明会には早いのを承知で出かけた。
誠一の行動はその暑さを避けてのものだ。
外は通勤に忙しいサラリーマンがせっせと駅の方へと歩いていく。その中にさほど大差のない誠一が流れに乗る。
「もし…」
歩いている最中に後方から落ち着きのある声が聞こえる。
「あん?」
つい地で反応する。がその行為に後悔を感じた。面接じゃないことが救いだと思いながら相手の顔を見た。
「主は随分時間を無駄にしてきたようだな」
「??」
その姿はこの暑い日に合わない黒く長いローブを羽織、顔はフードで覆われ確認できない。
それ以前にどこから来たのだろうか、いかにも妖しい。
「何だよ、いきなり」
誠一はいきなりの発言に半ばきれていた。
「そういきり立つでない、力の浪費ぞ」
占い師は冷ややかになだめる。その声は老婆のような口調だった。
「主はこれから…いや明日になれば分かることか」
占い師はもったいぶらせるように語る。
「何なんだよ、あんた何者だよ」
「儂か、朔那だ。いづれまた会うだろう」
朔那と名乗る占い師はそのまま背を向けて去っていく。
「え!おいどういうことだよ!!」
勝手にしゃべるだけしゃべって去る占い師に誠一は怒鳴るが、無視するように去っていった。
「…一体なんなんだよ…やばい!時間が‥ってほどでもないか」
腕時計を見て説明会の時間までを確認した。
占い師のことを仕方なく忘れることにして説明会場へと向かうことにした。
『…いづれまた会うだろう…』
だがその言葉だけが誠一の脳裏を侵食していた。
会場には誠一と大して変わらない姿の人たちが全体を占めていた。
そして決して充足感のある説明もなく、ただ単に就職手段の糧として参加しただけだった。
誠一にとっては別にここに就職したいわけでもない、とりあえず、である。
誠一は説明会が終わるとその脚で大学へと向かった。 もはやこの時には占い師の言葉を忘れていた。
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