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硝煙と血の匂い、銃撃音…それが当たり前の日常だった。森林に離された十数人の『魔術師』…生き残るためその身を削る。
ヘクトは茂みに隠れひたすら耳を澄ませて気配を殺しつづけていた。
「くそ、なんで仲間同士で殺し合いなんかしなきゃならないんだ!…テスラ、テスラはどうしたんだろう ?」
ヘクトが日本に送られて最初に出来た友人、背が高く、すらっとした容姿に銀色の目、ヘクトの2コ年上面倒見がよく、孤立していたヘクトに優しく声をかけてくれた。そんな彼女とも今は敵対しなければならない状態にある。
ヘクトは彼女が気になり、気配を探り、そこへ向かった。なぜか彼女の周囲には他の魔術師も集まっていることに気がついたからでもある。
「ぎゃああああ」
一つの命の灯火が消えた。
「テスラの近くだ!」
さっきから彼女の周囲で他の『魔術師』の気配が次々と消えていく。
「・・テスラ・・がやってるのか?」
「この化け物がああ」
ヘクトがテスラを確認できる距離まで来ると、そこには今まさにテスラの背後から『剣』を携えた『魔術師』が振り下ろそうとしていた。
「ぶしゃあああ」
派手な血しぶきとともにテスラの肩口から腹部にかけて『剣』が食い込んでいた。
「テスラー!!」
ヘクトは絶叫した。戦場では当たり前の殺しの光景。だが今見るものはそんなものとは比べ物にならないものだった…
「おい、大丈夫か!目を覚ませ!」
アルムの声。
ヘクトははっとして目を開く。何も無い天井、そこからアルムがヘクトの視界に入り込んだ。
「大丈夫か?大分うなされていたみたいだけど…」
アルムが心配そうに見る。
「別に、ちょっと昔を思い出しただけだよ。ミーティングがあるんだっけ?時間はまだ大丈夫なの?」
ヘクトは大量の汗を拭いながら、すっと立ち上がり、聞いた。
「それなら大丈夫、トメがまだ起きてこないと始まらないのでね」
アルムはまだ心配そうに見ているが、とりあえず普通に返答する。
「なにそんなアバウトなものなのか?」
ヘクトは昨日彼らが抵抗組織を名乗っているだけあってもう少し緊張感のあるものを期待していた。
「ええ、すべてはリーダーに任せてますから。ああ見えても20歳で内のリーダーをやってるんですよ」
アルムは少々自慢下に、でも不安げに言う。
「俺より年上?あれで?信じられないな、精神年齢いくつだよ?」
ヘクトがけなした瞬間、ヘクトは頭部に打撃を受けた。
「ぐっ…」
「気になってきてみたら、ガキで悪かったわね」
トメの右フックがきれいに決まった。
「つうう、まじで殴っただろ!」
ヘクトが頭をさすりながら大声でトメに言う。
「そんな大声で言わなくても聞こえますよーだ。それよりミーティングを始めるから上に集まって」
トメはヘクトの事を流すとそう言って部屋を出て行った。
「それじゃあ、先に行ってますね」
アルムはヘクトの頭を見て痛そうと思いながらそそくさと出て行った。
「・・くう、夢の内容を忘れさせてくれそうな痛みだな」
ヘクトはゆっくりと歩きながらその痛みを再確認した。
「さあ全員そろったわね、始めるわよ」
全員と言ってもヘクトを含めた6人だけだが。
「では、昨日の箱回収の件を先にリーダーから」
アルムが司会進行のような役割を果たしている。
「まず、結果的には回収には成功。ついでにその箱を開けることが出来る人間もここにいるわ…ちょっと来なさい」
トメはヘクトの方を見て手招きした。ヘクトはさっきの痛みを恨みながら従う。
「彼がこの箱を仕事場から横領していたおかげで上手く取り返すことが出来たわ、ついでにすでに一回この箱を開けているらしいのよ。そこで私たちは箱を開けてもらうことを条件に彼を私たちの仲間に加えることになったわ……」
いつも以上に迫力のある発言に誰も口を出すものはいなかった。
「……以上でこちらの報告は終わりよ」
「それでは続いて……」
ミーティングこんな調子で淡々と続いた。終わってヘクトは再び与えられた部屋に戻っていた。
「朝食は上に出て好きにしていいと言われても道が分からない…仕方ない、とりあえず夢のせいで疲れが全然抜けてない。もう少し寝よう…」
ヘクトはベッドにその身を再び預けた。眠りに落ちるのもそれほど時間はかからなかった。
…………ドタドタドタ、バン!
ヘクトの部屋に突然入ってきたものがいる。ヘクトもさすがにその騒動には気が付いた。
「ヘクトちょっとこっちにきて」
それはトメだった、なにやら焦っているかのようだ。
「な、何だよいきなり」
「いいから来なさいよ、あんたの仕事場がスクリーンに出てるのよ」
「!!何だって」
ヘクトはその言葉に跳ね上がりトメにスクリーンの場所に案内してもらった。
「本当だ…」
スクリーンにはヘクトの勤めているカプトースの全景が映し出されている
『昨夜未明、ここの従業員全員が自宅もしくは仕事場で何者かに刺し殺されるまたは銃殺と言う事件が起こりました。…詳細はまだ入っていませんが仕事場の同僚であるヘクト氏の行方が不明ということで容疑者として現在追っています。…』
「これが軍のやり方なのよ、情報を改竄して軍が手を染めていることを隠して自分たちの都合よく話を進める。これであなたは表を用意には出歩けなくなるわね」
「…そんなことはどうでもいいよ…従業員て二人だけじゃないのか?なんで皆まで…」
ヘクトはまだ実感が湧かない。
「くそ!」
ヘクトは次の瞬間外へ行こうと走り出した。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
トメが止めようとするが間に合わなかった。ヘクトの力は常人には厳しいものがある。
ヘクトは何事も無く地下から地上へと向かう。昨夜と変わらない暗闇の地下。
「大丈夫だ空気の流れがある」
ヘクトは道は憶えてなど無かったが微量の大気の流れを感じ取り地上を求めた。
そのまま自身の能力をフルに使い。本当に階段を見つけ出した。
「これでこいつを横にスライドして…」
階段の先はふさがれていたが取っ手を横に引くと簡単に開いた。
「よし」
ヘクトはビルの中に戻ってきた。さっきは無理だと思っていたがやれば出来ることを証明した。次の瞬間ヘクトは再び走り出した。
「…確認しなきゃこの目で…じゃなきゃ信じられない」
ヘクトは全速力でカプトースへと向かった。自分の息が切れるまで…
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