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ハア………ハア………。
トメは森林の中を進みながら、息を切らしていた。
ここまで軍から逃げてきた疲労と、森林の中の静けさが生み出す緊張感に、気が変になりそうだったのだ。
そして、目当ての丸太小屋に着いた。
慎重に周囲を見渡す。
「………追手の兵はいないわね……」
その時。
「…………!?」
突然背後から伸びてきた手がトメの肩に触れた。
「誰!?」
トメは瞬時に振り向き戦闘態勢に入る。
「うわっ!?ちょっと待て。俺だよ」
ヘクトだった。
「ヘクト………」
ヘクトはにこっと笑う。
「とりあえず無事で何よりだな」
トメがヘクトを見ると全身にかすり傷が所々あった。
おそらくヘクトもトメ同様ここまで来るのにかなり軍に追い回されてきたのだろう。
ヘクトの事だ。兵に見つかって戦ってきたりもしたかもしれない。
その時になって、仲間と再会できた安心感から、張り詰めていたトメの緊張感が解けた。
そして、突然トメは唇を噛み締めヘクトに抱きついた。
「お、おい。何だよいきなり」
当然のごとく、ヘクトはわけもわからず慌てている。
「ケントはもういない………。他の皆にも………アルムやデルタ、ドリアーノにももう会えないのかな………」
いつもの気丈なトメとは全く違った弱気なトメだった。
彼女は両親を失った後、ずっと仲間達と過ごしてきた。
その仲間の一人が目の前で無残に殺され、他の者達も生きている保証はない。
絶え間なくやってくる軍の襲撃。
そして、たった一人で軍から逃げながらここまで来た。
その緊張の糸が途切れ、抑え切れない不安や孤独感が一気に押し寄せてきたのだろう。
それは、ヘクトが初めて見た、トメの女の子らしい部分だった。
本当のトメは気の弱い普通の女の子なのかもしれない。
「何言ってんだよ。アルムが皆連れて帰ってくるに決まってんだろ?あのアルムがそう簡単にやられるわけはないさ。だから俺たちも先へ進まなきゃ」
ヘクトは精一杯トメを励ます。
ヘクトもまた、トメと同じくらいの辛い運命を背負ってきているのだが、本物の戦場を体験してきた分、今はトメよりも落ち着いていられるのかもしれない。
「そうだね。やっとここまで来たんだから先に進まなきゃね」
トメはその場で作ったような笑顔をヘクトに見せた。
が、振り返り様に一瞬涙を拭っていたのをヘクトは見逃さなかった。
そして………
「なあ、トメ」
「え?」
突然ヘクトが真顔になる。
いきなり真剣な目になったヘクトの迫力に少しトメは驚いた。
「お前ってさ、実は…………………………………………女だったんだな」
ヘクトが真顔でとんでもない事を口にする。
ある意味では本音だったのかもしれないが。
「はあ?」
つい数秒前まで感傷的だったトメの表情はたちまち怒りに満ちいく。
「どういう意味よ!」
バキ!
トメの右フックが見事にヘクトの顔面をとらえる。
「痛っ!何だよ、冗談だってば。そこまでやることないだろ」
「うるさい。バカ言ってないでさっさと行くよ!」
口調が完全にいつものトメに戻った。
トメは知らない内に、いつもの通りのパワフルさも取り戻していたのだ。
「お、おい。ちょっと待てよ」
ヘクトをほったらかしてズカズカと小屋の中に入って行こうとするトメの後をヘクトが追う。
「ったく」
トメの後姿を見ながらヘクトはくすっと軽く微笑んだ。
そのまま二人は、目の前に立つ小さな丸太小屋に入っていった。
辺りに軍の兵達の気配はなく、木の葉の揺れる音だけが心地よく聞こえてくる。
丸太小屋は本当に小さく、かなり古くさい感じがしていた。
周囲を見渡せば一面が森のみ。木々に囲まれている。
住所にしてみるとここは確かに横浜センター街に属するのかもしれないが、街外れとはいえ外れすぎている。
別荘として住む分には悪くはないかもしれないが、実際暮らすとなると少し不便な場所なのではないかと思える様なこの場所。もし、理由があってここにこんな小屋を建てたのだとしたら、その理由は一つしか考えられない。人目を避ける、という理由しか………。
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