「Wacky Pirates!!」
著者:創作集団NoNames



     −3−

 ヘクト達は一瞬たりとも目を離したわけではない。確かにメトルルの姿は消えたのだ。
「お、おい、消えたぞ?」
「どうなってるんや?」
 デルタとドリアーノは完全に困惑している。
「き、消えた?そんなことって………」
 トメも必死に辺りを見回す。
 その瞬間、アルムが反応した。
「後ろだ!」
 が、一瞬遅かった。
「……………ッ!?」
 音もなく、ただ視界の隅が微かに光っただけだった。
 突如、背後に現れた影に誰一人反応する間もなく、『光の槍』が一人の男の体を貫いていた。
「デルタ!」
 初めに声を上げたのはヘクトだった。
 が、既にデルタの意識はなくなった後だった。
「まずは一人………簡単なものだな」
 ようやく、自分達の背後にメトルルの実体を確認したヘクト達は言葉も出なかった。
 滴り落ちる血………。
全員の目の前には、メトルルの右腕から発生した『光の槍』がデルタの体を貫いている無残な光景だけが写されていたのだから。
「デルタッ!」
 ようやく事態を把握できたトメが叫ぶ。
「だめだ………。もう死んでる」
 アルムが目を閉じたまま言った。
「ちくしょお…………」
 目の前の悪夢を受けとめると同時に怒りに我を忘れたドリアーノが、メトルルに殴りかかる。
 ドゴッ!
 ドリアーノの重い拳を、メトルルは軽々と片手で受け止めた。
「な、何!?」
そして
「えいっ!」
 すかさずトメがメトルルの顔面をめがけて鋭い蹴りを放つ。
 ビシッ!
「ッ!?」 
何とメトルルは、もう一方の手でトメの蹴りをも軽々と受け止めた。
「無駄だ」
 突如、メトルルの体をまばゆい光を放ち『膜』が包み込む。
「うわあ!」
 『膜』に触れた瞬間、トメの小さな体とドリアーノの大きな体が同時に弾き飛ばされた。
「これは………」
 アルムはメトルルのこの能力に見覚えがあった。
 おそらく以前戦った「ラム中尉」とタイプ的には重なる物なのだろう。
 自分の体を『膜』で包み身を守り、手から『槍』などの凶器を発生させ攻撃する能力。
 しかし、タイプは似ていてもそのスケールは桁違いだった。
「トメ、ドリアーノ!………くそおっ!」
 ヘクトは半ばやけを起こした様に叫びながら、再び自分の能力にエンジンをかけた。
 瞬間的にメトルルの背後に回りこむ。
「てい!」
 そのままの勢いで、電光石火のごとく蹴りを放つ。
 が、メトルルは体を横に流し軽々とかわした。
 ドゴオッ! 
勢い余って無防備になっていたヘクトはカウンターのボディブローをまともにくらい、叩きつけられた。
「う………ぐ………」
「その程度か。『もどき』君?」
 メトルルは楽しそうに笑っている。
「くそっ、化け物め」
 その場に残されていたアルムは両手を合わせると、今までにない大きな炎の弾丸を発生させメトルルに投げつけた。   
 ゴオオオオ!
 炎は次第に広がっていき、メトルルの体を包み込む。
「やったか?」
 ヘクト、トメ、ドリアーノの視線もその燃えさかる炎に向けられる。
 やがて、徐々に炎が晴れていくと………
「何!?………メトルルがいない!?」
 そこにメトルルの姿は無かった。
「ど、どこだ?」 
 アルムは辺りを見回すが、メトルルの気配すらも感じられない。
 そして
『こっちだ』
「ッ!?」
 メトルルの声はアルムの頭上から聞こえた。
「上………?」
 バキッ!
 視線が追いつくと同時に、メトルルの強烈な蹴りがアルムの後頭部に入る。
「ぐ………」
 そのまま、アルムは体ごと吹っ飛び、頭から地面に叩きつけられた。
 とにかくメトルルの強さは圧倒的だった。
 一瞬にして、デルタが命を失ったばかりか、その後四対一で戦闘を仕掛けてもまるで歯が立たない。
 やがて体制を立て直した四人は、あまりの実力の違いに絶望すら感じ始めていた。
「つ、強過ぎる………」
 攻撃を受けた後頭部を抑えながら、アルムが苦痛の表情で言う。
「四対一なのに……歯が立たないなんて………」
 トメの表情は引きつっていた。
「このままじゃ俺たちもデルタの様に………」
 ドリアーノも同じ様に引きつった表情で、デルタの亡骸を一瞥する。
「どうした、その程度か?」
 メトルルは一人一人の顔を眺めながら、余裕の笑みを浮かべる。
 もう既に完全に勝利を確信している表情だ。
「くそ………」
 ヘクトは歯を食いしばったままメトルルを睨みつける。
「さて、遊びはこの辺にしてそろそろ一人ずつ逝ってもらうとするか……」
 メトルルは、口元に不気味な笑みを浮かべると、右手に『光の槍』を発生させた。
 先ほどデルタの体を串刺しにした恐るべき凶器である。
「誰から消えてもらおうか………」
 メトルルは一人一人の顔をゆっくりと眺めていく。
 その視線は新たな犠牲者を選抜すべく、ゆっくりとその選択を楽しんでいるかの様だった。
ヘクト達の表情は次第に緊迫感に満ちていく。
「よし、決めた!」
 その一言を残し、再びメトルルは姿を消した。
「くそ、また消えやがった!」
 ドリアーノはきょろきょろと消えた男を捜す。
「今度はどこ!?」
 トメは戦闘体制で待ち構える。
 が、やはりその目ではメトルルの姿は捕らえられていない。
 その空間には何秒間か、耐え難い沈黙が広がった。
 瞬きなどする間もない。一瞬でも気を抜けば、仲間の誰かがボロクズの様に切り裂かれる。
 そう、デルタと同じ様に
「………ハッ!?」
 その時だ。ついにヘクトの目がメトルルの姿を捕らえた。
 さすがに『魔術師』であるヘクトの目は実践慣れしているらしく、メトルルの動きにも徐々に順応し始めているのだろう。
 しかし、皮肉な事に気付くのがほんの一瞬遅かった。
 メトルルは既に、自らが定めた標的の真後ろにまで接近していたのだ。
 その瞬間の状況からして、標的の余命は残り数秒に満たないだろう。
そして、ヘクトは『標的にされた仲間』の名を叫ぶ………
「トメーッ!」
 既にメトルルは『光の槍』を振り上げ、トメの背後にまで接近していたのだ。
 ヘクトの視界に入ったメトルルの姿。
 それはメトルルがトメを切り裂く、一瞬前の姿だった。
「………!?」
 その時。
 無情な魔術師が自分の大事な仲間を切り裂こうとしているその光景を目にした瞬間、ヘクトの脳裏には『ある光景』が蘇った。
 それは、忌まわしき記憶の断片であり、ヘクトの心に封印されていた悪夢のワンシーンだった。
 フラッシュバックの様に、鮮明に、ヘクトの脳裏にあの『最悪の日』の光景が蘇る。




[第五章・第二節] | [第五章・第四節]