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―テスラー!!―
硝煙と血の匂いが混じりあう森林の中気配を探りながら徐々にその場所に近づいていく。
『魔術師』達の気配が次々と消えていくその場所へ。
間もなく、目的地は目と鼻の先である。
「……テスラ……がやっているのか?」
「この化け物がああ」
ヘクトがテスラを確認できる距離まで来ると、そこには今まさにテスラの背後から『剣』を携えた『魔術師』が振り下ろそうとしていた。
ぶしゃあああ!
派手な血しぶきとともにテスラの肩口から腹部にかけて『剣』が食い込んでいた。
「テスラー!!」
ヘクトは絶叫した。戦場では当たり前の殺しの光景。だが今見るものはそんなものとは比べ物にならないものだった………。
目の前で……もう少しで手が届くような目の前で大事な仲間が殺されていく。
それはかつて味わったことのない様な絶望感だった。
大きく切り裂かれたテスラの体はそのまま地に向けて倒れこんでいく。
しかしその瞬間、まだテスラの意識は失われてはいなかったのだ。
倒れ様、テスラは右手の平から丸い『光の玉』を発生させると、最期の力を振り絞り、それを魔術師に向かって投げつけた。
ドゴオオオオン!
「うあっ!」
小振りな『光の玉』だったが、触れた瞬間に手榴弾の様な大爆発を起こし、魔術師の身を焼き焦がした。
一瞬にして魔術師は全身に大火傷を負い、物言わぬ躯となった。
と、同時にテスラも力を使いきり、その場に倒れこむ。
そう、それは相打ちだったのだ。
「テスラー!!」
すぐにヘクトはテスラに駆け寄り、血にまみれたその体を抱き起こした。
「ヘクト………?」
消えそうな弱い声。まさに死の縁に直面しているテスラはもはや、視界も閉ざされかけている。言葉を発する事さえやっとだった。
「テスラ、しっかりしろ。テスラ……」
「………………あなたの………勝ちよ」
テスラの口から意外な言葉が発せられる。
「え?」
「忘れたの…………?これは………サバイバル……ゲーム。あなたは………最期まで…………生き残ったのよ……………ぐふっ!」
テスラは吐血した。
その時になってヘクトは初めて気が付く。現段階でこの演習場に生き残っていた魔術師はヘクトの他にテスラを含めて二人、計三人だった。
その内の二人がたった今、ヘクトの目の前で相打ちになった。
という事は今この場に立っているのはただ一人、自分のみだという事に。
「な、何言ってるんだよ?俺は何も出来やしなかった。全部お前がやったんじゃないか?お前こそが生き残る資格のある勝者だよ…………」
テスラは静かに微笑んだ。
その笑顔を見て、ヘクトはハッとある事に気が付いた。
「まさか………お前………俺のためにわざと切られた………」
「あなたに……私は……殺せなかった………………でしょ?」
ヘクトはカタカタと震え始めた。
それはあまりに皮肉な事実だったのだ。
「ヘクト…………生……き………て…………」
テスラを支えるヘクトの手に、テスラの全身の力が抜けていくのが感じられた。
その言葉を最期に、テスラは静かに息を引き取ったのだ。
「テスラー!!」
森林の生い茂るただっ広い演習場に、ヘクトの叫び声だけがむなしく響き渡った。
こうして、各国から集められた魔術師達による過酷なサバイバルゲームは幕を閉じた。
ヘクトは勝利の栄光と共に、自らの命の安全を確保することが出来たのだ。
だがその代償はあまりに大きく、ヘクトの心に決して消える事のない深い傷を残した。
この日、心優しき魔術師がたった一人の仲間の為にその若き命の灯火を消された。
「俺を一人にしないでくれー!!テスラー!!」
―テスラー!!……………―
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