序 章:箱庭の仔猫たち
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)
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ここからだと空は、少女にはとても高く、色の濃いモノに見えた。
「……はぁー」
このまま寝ちゃおうかなぁ……そうしたら「天気がいいので寝てしまいました」って笑い話になって事なきを得そうだし……。
その考えが既にあくどいことに気づいていない少女が一人、ベンチに座っていた。
隣には小さな巾着に入ったお弁当箱と、紙パックの烏龍茶が雑巾絞りになって痛々しげに体をよじって倒れている。
風が程よくて、春よりも青いその空に散った、途切れ途切れの雲。
ちょっと日差しが強めだけれどぽかぽかしていて、実のところとてもいい天気。
もう少しすれば、眠気にもあがらえなくなりそうな……。
ふわわ………。
盛大にあくびをかまして、目尻に浮かんだ涙を拭う。
少しだけ霞んだ視界に腕時計を映せば、昼休みも半ばを過ぎた頃だった。
かといって、やるべき急務も、行くべき場所も、これといって少女にはなかった。
流れているはずの昼の校内放送も、校舎の合間では意外と聞こえない。
学校の銀杏の下に位置するこのベンチの目の前、小さな渡り廊下を見覚えのない人たちが当然のように素通りして校舎の中へと消えてゆくのを、少女はただ眠そうに見ていた。
けれど、誰も、忙しそうにしてベンチの少女には気付いていやしない。
「………」
しばらくの間、向けていた二棟の入り口から目を逸らして、大きな息と共にベンチに思いっきり背中を預け、空を見上げる。
なんか、だれた中年のおっさんみたいな格好だなぁ……。
してみてから、なんとなくだがそう思った。
まだ時期柄、青々と葉の茂る銀杏の木洩れ日の向こう側に見上げる空は、高く遠い。
だから。
一度眼を強く閉じた後、吹っ切るように強く息を切る。
巾着と烏龍茶の残骸を右手で器用につかんで、立ち上がった。
「おしっ」
少し眠いけど、体は快調。
一度その場で伸びをした後、少女はぽつりとつぶやいた。
「五時間目サボろーっと」
少女の姿は、昼下がりの校舎へとのんきな足取りで消えていった。