序 章:箱庭の仔猫たち
著者:蓮夜崎凪音(にゃぎー)



    −3−

 ここからだと空は四角くて、安っぽい青で、ガラスの向こう側にある。

「ふぅ」
 退屈すぎて、窓際に座る少年の口から溜息がついて出た。
 黒板の上にある時計は、後二分で昼休みを告げる。
 最後の追い込みとばかりに板書の説明に入る先生の死角をつくように辺りを見回せば、お腹をすかせて貧乏ゆすりしている奴やら、眠いのを後少しだからと我慢してて眼が据わっているのやらと様々。一部ではもう既にお弁当を机の上に出している女子もいる。
 とりあえず、クラスの雰囲気としては授業なんてもうどうでもよさそうだ。
 確かに、テストに出る数学の公式よりは眠気や空腹を覚えたい。

 ふわぁ……。

 少し日差しが強めの、ぽかぽかした陽気。
 窓が開いてないから風の強さは分からないが、たぶん心地よいのだろう。
 視線を逸らした窓の外には、丘陵の下へと広がってゆく地味な屋根の町並み。
 遙か向こうに見えるはずの高い山の連なりは、白く薄い雲にさえぎられて見えなかった。
 安っぽくて、どれも均一に見える空の青など、別に少年にはどうでもよかった。
 下に広がる人間のほうが、見ていてよほど面白いんじゃないのか、と思う。

 そんな思いを遮断するように、四限が終わるチャイムが鳴った。
 まっさきに教室から消える購買、学食組の面々。
 机をあわせながら、雑談に興じる弁当組。
「牧島」
 おそばせながら、購買組の後を追おうと席を立った少年の後ろに、四限担当の数学教師の声がかかった。
「……はい」
 意識的に視線を外しながら応答すると、教師はそれでも軽い笑顔でこっちを向いていた。
 実際、少年はこの教師が得意ではなかった。
「調子はどうだ?」
「え……?」
「模試、調子良かったみたいじゃないか」
「ああ」
 ちょっと曖昧に言葉を逃がす。
 触れて欲しくない。
「そう、ですね」
 それでも、義務のように「どう応えていいやら」という苦笑いを浮かべる。
 そう、義務だ。
「先生たちも期待してるから。ガンバレな」
 軽くたしなめるようにいわれて、教師は教室を後にした。
 雑踏の中、少年は少しだけ目を細めて、机に手をついた。
 心の影に、薄暗い影が灯る。

 あれで調子が良かった?

 ふわりと、落ち葉のように心につもる物。
 一瞬だけ強く締め付けられて、息が詰まるような、錯覚。
「………」
 にらみつけた瞳を緩めて、大きく息をつく。
 平静に。
 いつもどおりの自分になれ。
 まじないのように、二、三回と呼吸と共に繰り返し。
 少年は、昼の雑踏の中へ、教室を後にした。