クランベリープリンセス
著者:創作集団NoNames



  第四章  いざ箱根

        1

 「そこにいるのは分かっているんだ。大人しく返したまえ、黒桜!」
 閑静な田舎町で、波の音と、うさんくさい声だけが響く。
 「返せって言われても、返すバカがどこにいるんだか」
改は一人で気味悪く笑っている。
「何がそんなにおかしいんですか?」
ミルは訳が分からず聞いてみる。
「ムフフ、泥棒の血が騒ぐって言うか、うまく説明できなけど、すっごく楽しんだよ」
「こいつ泥棒バカだから気にしないでね、ミルちゃん」
ミルは頷くと、階段を下りた。
続いて、二人も下に着いた。
「テンションがあがってきたところで、これからどうする?」
香澄は改に助けを求めた。
慣れている改が引っ張って、この後のことを進めるのがよいと判断したのだろう。
「外はどんな感じだ」
香澄は窓際に近寄って、外の様子をうかがってみる。
黒い車が軽く十台は停まっている。
「ざっと見たかぎりでは、五、六十人って位が囲っているわよ」
香澄が戻ってきて言った。
「うーん、いつもなら屋根づたいに移動するのが手っ取り早いんだが、今回はミルもいるし、俺もこんな状態だからな」
さすがの大怪盗も今回は腕組みをして頭を悩ませている。
ミルは少々おびえている風にも見受けられるが、改を見つめ安心している風にも見受けられる。
「香澄、ピカはあるか?」
「『ピカ』ってなんなのですか?」
ミルは興味心身で、身を乗り出して問いただす。
「危ないから、ミルは知らなくていいのよ」
香澄は裏の世界には巻き込みたくない気持ちから、優しくミルに言った。
「ミルにはちょっと危険な武器だから、知らなくていいんだよ」
改も優しく言った。ミルは仲間はずれになった気持ちでちょっと苦い顔になった。
「えー、どうしても教えてくれないんでちゅか?」
ミルの甘―い子供っぽい声で改を誘惑する。
改はドキッとしてしまったのであろうか。香澄のそっち方面へ向かわせたくない気持ちを無視して話してしまった。
「ピカはね、普通のお店には売っていない手作りの道具でね、ボールの中に薬品が入っていて、地面に叩きつけると、外側のカバーが外れて、爆風とともに秒ほど三十秒ほど強い光があたりを包むんだ」
香澄は無表情で改の顔を見る。
「そして、この光は特別なサングラスをしないかぎり、瞼や腕を貫通して目まで達して気絶させてしまう優れものなんだよ」
改はミルと同じ目線ぐらいまでに腰を落として、身振りを交えて説明した。
「それはすごいですね、さすが改さん」
ミルの言葉に、自慢げになって、ちょっと浮かれた改であるが、すぐに冷たい視線が刺さっているのに気付いた。
顔は笑っているが、目はさっきの昼食の時と同じ目をしている。
「それで、ピカを使うんですか?」
ミルが、二人の間に起こっている冷戦にはまったく気付かず聞いている。
「ピカはあるにはあるんだけどね・・・」
ちょっと香澄が語尾をあいまいにして、下を向いて思いをめぐらせている。
「取り扱いが大変だけど、この場面なら有効な道具だよ。」
改がそう言うと、香澄が改のほうをじっとにらんで……いや、顔を上げて答えた。
「一人だったら、それで、良いけど、三人の団体だし、それに移動手段がないからこの場から逃れたとしても、後で大変なんじゃない」
香澄が言った事にちょっと押し黙って改が反論した。
「確かに言うとおりだな。けど、時間にゆとりがあるわけではないし、『ピカ』を使う、使わないは別にしても、持っていたほうがいいんじゃないか」
 そこまで言うのなら、といった表情で香澄は、ボールをとりに行った。
香澄はさっきミルが着替えていた部屋に行って、カラーボールのようなものを三つと、傍から見ると普通のメガネの様なゴーグルを三つ持ってきた。
「分かっているでしょうけど、料金は後払いだからね」
香澄は念を押した。
「必ず使う時は、ゴーグルをかけるのよ。そして、誤爆には十分注意してね」
昼食の時とは違う緊張感が、香澄の言葉からミルにも伝わってくる。
「これがミルちゃんの分ね」
手渡しでミルに渡した。
「はい、ありがとうございます」
「腰のベルトにホルダーが付いているから、そこにしまっておいてね」
「で、これがあんたの分」
そう言って、ついラジオを投げてしまうように、ピカを投げてしまった。
「あ・・・・・」
改と香澄の声がそろった。
「ゴーグル着用!!!」
とっさに改の声が部屋中を駆け巡る。
改は同時に投げられたゴーグルを、ジャンピングキャッチをして、空中で装備した。
香澄もあわててゴーグルをかけた。
残りはミルだけだ。だが、ベルトのホルダーを探していたミルは何が起こったのか状況が分からず、ゴーグルを付けるのが遅れてしまった。
「ミル!!!」
香澄が気付いた時には、まさにピカが地面に着こうとしていた。
(もうダメ、神様お願い)
香澄は心の中でそう叫んで、どうしてよいのか分からずにしゃがみ込んでしまった。
その時、空中でゴーグルをキャッチした改はとっさに指輪のスプレーを使った。
じつはこのスプレー、強風の時でも使用可能なように、圧力がとても高く作られている。
ただし、あまり長時間使用するには向いていない。
『シュー』
勢い良く出た紫色のスプレーが黄色いボールへ吹きかけられる。
改のとっさの判断のおかげで、窓の方へとボールの向きが変った。
改はさらに銃で窓を割った。そして、香澄の方へと駆け寄った。
「ほら何してんだよ!!いくぞ!!」
しゃがみ込んでいた香澄は窓ガラスが割れる音と改の声を聞いて、おそるおそる目を開けた。

一方、外では「パーン」という銃声とともに、窓が割れ、ちょうど割れたところからボールが飛び出してきた。
「突撃!撃て!」
外に待機していた館長は叫んだ。
これが最期の言葉になってしまうとも知らずに・・・。

部屋ではまだミルはゴーグルをはめられずにいた。
「ミル、早くゴーグルを付けろ!!」
改はミルがはめていない事に気づいたが、ミルの持っているゴーグルを取り上げてはめていたら、間に合いそうになかった。
とっさに自分の付けていたゴーグルを外し、ミルに付けた。
そして・・・・・・
『ド――――――ン!!』
キノコ雲が発生して辺りの建物は吹き飛んでしまった。
まるで、原爆の縮小版である。恐るべきピカ。




[第三章・第三節] | [第四章・第二節]