「My Owner is Excellent!!」
著者:創作集団NoNames



第五章

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 小道のぬかるみをもろともせず、不気味に静まり返った街の中を駆けてゆく。
 カシスに調子を多少あわせているため、二人の動きは多少緩やかだったがそれでもあまり余裕というものがない。
「ねぇ………」
「ああ………」
 短いやり取りだけが、雨上がりのむせるような空気の中を飛び交う。
「おかしいんじゃない?これはいくらなんでも」
「………確かに」
 シャルが、険しい顔で足元をにらむ。
 『誰もいない』のだ。
 あれほど街にあふれかえっていた赤い額の人々の影が見えない。
「なーんか、拍子抜けしちまうわな」
「いないならいないでいいじゃん。楽だよ」
 ナッツが横から不謹慎なことを呟くのに同調するカシス。
 だが、それを見てシャルが表情を落とす。
「………」
「どうかした?シャル?」
「いえ……カシス、あなたは原因を考えたことがないんですね………」
「は?」
「なんでもないです……すぐ分かりますから」
 持ってまわったいい方に、カシスは少し不満そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
「ま、すぐなんとかなるといいよね」
「楽天的な………」
「そういけばいいけどなぁ………相手は積年の恨みを晴らそうと躍起になってる暗黒宗教だぜ?」
 小道が終わる。
 後は、学園まで大通りを一本横切って、街を円とすると教会とは反対側の丘を目指すだけだ。
 しかし、小道を出るところでカシスの腕をシャルとナッツが同時につかんだ。
「わうっ」
「ッ!」
「いったーって、うぐ」
「しーっ、静かに」
 いきなり腕を引っ張られて口をふさがれて、「静かに」もあったものじゃなかったが、とりあえずカシスはむっとしたまま黙った。
 塞いでいたナッツは、小声で小さく謝りながらすぐに手を離した。
「なんなのよ……」
 建物の脇から、大通りを覗き込む。
「………あれ」
 今まで誰もいなかった街の住人が、ぽつりぽつりと少しずつ学院までの坂を上ってゆく。
「やっぱりか」
「どういうこと?」
「………つまり、いなかったのはこの学院に集まってるから、ということです」
「と、いうことは………」
 さすがのカシスも顔を少しだけ苦くさせた。
「学院は、今やこの町の人間であふれかえってる、っつーことだろうね」
 ナッツがうんざりした顔で丘の上にある、古びたレンガ造りの建物を見上げた。
「カシス、一応学院生なら地理的構造は分かるよね?」
「まぁ………それなりにだけど」
「それじゃ、絶対に素手じゃ侵入不可能、みたいなところ、あるよね?」
 そういって、ナッツは懐から鉤爪を取り出した。
「そんなもんどこから………」
「こういうこともあろうかと、ね。とりあえず崖っぽいところ、あるかな?」
「う〜ん、普段使わないからなぁ……とりあえず裏手ならあるかも」
「よし、それじゃ、さっそく行動しないと。時間、あんまりなさそうだし」
「奴ら、正面しか見えてません……抜けるなら後続がいない今がチャンスです」
 シャルの言葉で、誰も、何も言わずに飛び出した。
 まっさきに街道を抜けて、反対側の路地に滑り込む。
 そのまま走り出して数歩、カシスが後ろを振り向いて確認した。
「大丈夫、追っ手はきてないみたい」
「……よし、このまま突っ切りましょう」
「がってんだ!」
「オーケー」
 三人は、シャルを筆頭にして、暗くなった夜道を、ただひたすらに走り続けた。




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