第二章 炎の中で見た景色
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午後十一時四十五分。啓は床についた。
今のこの生活に決して満足してないわけでもなく、園芸部での変わることない日々にも彼自身人並の充実感を感じていた。
いや、むしろ園芸部での日々は彼にとっては一日として同じ日の繰り返しなどありえない。
植物は感情を持たず、言葉も持たない。日々人間から水と肥料を与えられ機械的な図鑑通りの成長過程をたどっていく。
それが現実なのかも知れない。
しかし啓の考えはそんな常識の通じる世界よりも、ずっと遠くへと行っていた。
植物は感情を持っている。笑顔を見せれば微笑み返してくれる。愛を持って接すれば同じ分だけの愛で答えてくれる。サボテンを息子の様に可愛がる人もいれば、チューリップが親友と言う人、ヒヤシンスに恋する人もいるのだ。
啓はそんな自分の理論が広く人には認められず、学校の教科書と逆の道へ行っている事もわかっている。
ただほんの少しだけ存在する自分と同じ考えの人と一緒にやっている部活。
そんな空間で生きる毎日に何の不満があるだろうか。
ただ一つだけ気がかりなのはあの少女の事だけだった……。
睦葉は半年くらい前までは確かにいたって普通だった。
あの日までは………。
口から出るのは冷たい皮肉だけだが啓の頭の中は津波の様に押し寄せる大きな責任に狂いそうだった。
睦葉があんなになった責任は自分にある。そう、何もかもが自分のせいだ。
忘れてしまえたら幾らか楽だろう。
啓はあの日から………あの瞬間から何もしてやれなかった自分を責め続けてきたのだ。
「疲れた。もう寝よう」
啓は自分を絞め殺そうとしているかの様な想いを降り払うかのごとく枕にに顔をうずめた。
しかし何よりもその想いを膨張させてしまうのは睦葉に対して何年も前から密かに抱いている感情………。
啓はそれにぼんやりお気付き始めていた。
だから考えて続けていたのだ。
深遠の眠り姫を目覚めさせる方法を………。
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