第一章
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「朝だぞ〜、起きろ〜。朝だ『ズパン!』」
「くあ?…なんだ、もう朝か」
ベッドの上に立ち上がり、伸びを一つ。カーテンを開けて朝日を全身に浴びる。なぜかしゃべる目覚まし時計が壊れているが、気にしないことにしよう。
「うっし、それじゃあ今日も一日はりきっていこー!」
うわぁ、朝からテンション高いな、俺。まあいつものことなんだけど。
「何か変な夢見てた気がするなぁ」
なんてことを考えてたら、腹の虫が自己主張をはじめた。夕べは酒しか飲んでなかったな、そういえば。
さっさと制服に着替えて、顔を洗ってからキッチンへ。
「家族のみんな、おはよう!」
……って返事がない。なんだ、みんなまだ寝てんのか。
「とりあえず朝飯にするか」
冷蔵庫の中から牛乳とバターをとりだしテーブルに座る。食パンをトースターにセットしてから、
「朝の牛乳1リットル一気、行きます」
誰かに宣言し、パックを開け一気に口へと流し込む。
30秒後、空になったパックをテーブルに置き一息。うん、やっぱ朝これだな。農家の人と牛に感謝。
『チーン』
タイミングよくトースターからパンが出てきた。早速バターを塗りつけてかぶりつく。
「この中途半端な焼け具合、あきらかに多すぎるバター…」
料理マンガの審査員みたいなことを言いながら食う。
まぁ、俺はこのくらいが好きなんだけどね。
「一枚じゃ足りないな、もう一枚食うか」
食パンの袋に手を伸ばした時、テーブルに置いてあった一枚の紙と封筒に気がついた。
「なんだこれ、『8月1日まで二人で族行に行ってきます。飛行機なので、もう出発します。姉弟二人で留守番ヨロシク 両親より』?」
なにぃ?聞いてないぞ。何考えてんだうちの親は。しかも旅行の字、違うし。
ん?下にもう一枚あったぞ。
『出かけてくる』
おい姉貴、お前もか!しかも書置き短いよ!
…ま、この際だ。こーなったら一人を満喫するか。で、この封筒がその食費か。
「いくらあんのかな。出て来い日本銀行券」
出てきたのは2枚の夏目漱石だった。
「ハイ?これだけデスカ?」
今日が終業式だから、あと二週間を二千円で過ごせとおっしゃるのですか?一日150円弱で生きろと?
ここで短い方の書置きを思い出した。
あの姉貴のことだ、金が置いてあったらもっていくだろう。
「あの女…いくら持ってったんだ?」
少なくとも八割は持っていかれたんだろうな。二千円だけでもあるだけましってことか。
くそっ、とにかく考えても仕方がないか。いざとなったら裕也ん家にでも泊まるか。留守番頼まれた意味ないけど。
ふと時計を見るともう8時ジャスト。やべっ、急がないと。
二枚目のパンは諦めて、適当にテーブルを片付ける。
適当に歯を磨いて目立つ寝癖を整える。
部屋に戻って、ベッドの上のハリセンを取る。先ほど目覚ましを止めるのに使ったヤツだ。それをカバンの中に突っ込む。
玄関で靴に足をねじ込み、いざ学校へ。
う、直射日光がキツイ。さすが七月だ。でも急がないと。
学校が見えるところまで走っていくと、同じ制服を着た人たちが次々と校門に入っていくところが見えた。
何とか間に合ったか、セーフ。
自分の教室に入り、席に座ると後ろから聞きなれた声がかけられた。
「おはよーっす」
振り向いて見ると予想どうり、そこには裕也がいた。
沢村裕也、中学の頃知り合ったからもう4年目だ。家がそれなりに近いのでよく泊まりに行ったりする。いつもナイスなボケをかましてくれる、貴重な友人だ。
後ろで束ねられた髪は肩甲骨のところまで伸びていて、顔にはいつも似合わない伊達眼鏡をかけている。
「ああ、おはよ」
完全に目がさめたので、少しテンションが落ちてきた。俺は太陽が高さとテンションが反比例するんですよ。
「今日でやっと1学期終わりだな。カズは休みになんか予定あるの?」
「死なないことかな」
ちなみにカズっていうのは俺の名前。正式名称は小山一彦『普通の二文字が似合うとかたまに言われるような顔立ちだ。早生まれなのでまだ15歳。
裕也は4月生まれなのでもう16歳、これはちょっとムカツク。
「なんだそりゃ?」
ギャグだと解釈して裕也は笑うが、俺はあまり笑えない。二千円で今月を生きなければならないので、牛乳を1日1リットル飲めなくなりそうなのだ。
そんなことを話していると、チャイムの音が鳴り同時に担任の三宅が教室にはいってきた。
入ってくるなり、三宅は出席を取り始めた。生徒の方を見ていないので、代返をしている人が数人いることに気づいていない。今日は終業式だけだし、サボりが多いな。
「え〜、これから終業式が始まるので、騒がずに体育館へ移動するように」
早速体育館へ移動、校長の話って長いんだよな〜。
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