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「こら、理奈。飛び蹴りはする前に一声かけないと危ないだろ」
裕也が注意をしているが、ポイントが違うぞ。オイ。
「ごめんね、カズ君」
軽く頭を下げるが反省しているようには見えないし、また機会があったらやるだろう。つまり『いつものこと』なのである。
「いてて、せめてもうちょい手加減してくれ」
それを承知しているため、こちらも本気で起こることはない。
この目の前の少女の名は沢村理奈。裕也の妹だ。妹といっても誕生日の都合で学年は同じ。俺たちの隣のクラスだったりする。裕也とは全然似ていなく、容姿も頭もいい。
「そうだ、これからカズの家に行くんだけど、理奈も来るか?」
お前がそれを言うなよ。と、言いたいけど力が出ない。顔がぬれた某菓子パンマンのようだ。
「え、いいの?」
理奈がこっちをみてくる。特に断る理由もない。
「俺は別にかまわないよ」
どうせ暇だしな。
「そうと決まればさっさと行こー」
だからお前が言うなって。けどこのまま突っ立ってても暑いのも確かだな。
3人で成績についての話をしながら帰宅。ちなみに成績は裕也<俺<理奈って感じ。
25分ほどで家に到着。鍵を取り出して開けようとすると…。
「あれ?開いてる」
鍵がかかってない。姉貴は一度出かけたら2,3日は帰ってこないはず。
「もしかして、泥棒?」
理奈が不安そうな声を上げる。
「いや、これは…鍵の掛け忘れだな」
朝急いでたんですっかり忘れてた。危ない危ない。
「アホだな、お前」
うわ、コイツに言われると余計に腹立つ。
「今日は慌ててたんだよ。いいからさっさと入れ」
「おじゃまします」
「ちーす」
二人ともまっすぐ俺の部屋に向かう。しょっちゅう来てるからもう慣れてるな。
とりあえず俺は机の前の椅子に、理奈はベッドに、裕也はコンポの前に座った。
「うわ、この部屋暑!クーラーつけていいか?」
返事をする前にリモコンを使ってつけてやがる。慣れ過ぎだよ。
「親しき中には礼儀なしってね」
そう言って裕也はカバンからMDとCDを取り出した。
「ごめんね。うちのバカ兄が勝手なことして」
ホント理奈が裕也に似てなくて助かったよ。
「まあ、こんな時のためにコレがあるんだけどな」
俺の右手にはカバンから取り出したマイ・ハリセンが握られている。
ちょっと調子に乗り始めてるからな。
「うわ、ちょっ、ゴメン。それは勘弁」
それを見たとたん慌てる裕也。わかればよし。
「ねえ、カズ君コレ何?」
理奈の手には今朝の目覚ましがあった。
「ただのオブジェ」
そんないつもと同じ時間はいきなり終わりを告げた。
「今日は暑かったし、のどが渇いたな」
何か飲み物を取りに行こうと立ち上がったそのとき。
ガタガタガタガタ!
押入れからものすごく異様な音が聞こえた。
三人の視線が押入れに集まる。
最初に口を開いたのは裕也だった。
「カズ…押入れにガタガタって音がするもの入れた?」
「いや。心当たりはないよ」
ガタガタ!また聞こえた。
「まさか本当に泥棒が?」
理奈が俺の後ろに隠れた。
俺と裕也は目で合図をして、押入れにゆっくりと近づいた。裕也は机の近くにあった木刀を手に取り両手で握る。木刀は去年、修学旅行で買ったものだ。
って解説している場合じゃない。音の原因を調べないと。
「裕也、いいか?」
「OK、カズ。いつでもどうぞ」
「うりゃあ!」
思い切り押入れを開けて、後ろに下がる。
すると中から何かが飛び出した来た。
「きゃあ!」
飛び出してきた何かはそんな悲鳴を上げた。
「……カズ?これは?」
裕也が木刀を構えたまま固まっている。っていうか部屋にいる全員が固まった。
そりゃそうだろう。いきなり押入れからこんなのが飛び出してくりゃな。
「えっと…カズ君?」
理奈がなんとも形容しがたい顔でこっちを見ていた。
とりあえずこの場を何とかしなきゃな。
そんなことを考えていると、その飛び出してきたモノがこっちを見た。
「あなたが小山一彦さんですね?私はあなたを迎えに『パァン』」
思わずやってしまった。仕方ないよな、こんな状況じゃ体が勝手に動くんだよ。
目の前で頭を押さえているモノは人の、それも少女の形をしていた。
ただそれを人と呼べない理由は。
「なんだ?このちっちゃいの?」
そう、小さいのだ。目の前の少女は20センチほどの身長しかないのだ。
「いた〜、いきなり何するんですか〜」
非難するような目でその少女はこっちを睨んだ。
その後、俺はこんなの知らない、と二人を20分かけてやっと説得した。
なんかまだ疑わしげな目をしているが、無視。
「えっと、私が喋ってもよろしいでしょうか?」
おずおずと少女が自己主張をしていた。
「あ、ああ。どうぞ」
もうどうにでもなれ。
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