「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



    −4−

 え〜と、落ち着こう。そう、まずは落ち着くんだ一彦。慌てちゃ駄目だ。…うん、落ち着いた。
この少女の話をまとめるとこんな感じだった。
 まず、名前はココノというらしい。彼女はこことは別の世界、いわゆる異世界とやらから来たらしい。そして、俺にその世界を救えとのこと。
「……なんだそりゃ」
 まるでマンガのような話だ。だが実際目の前には小さい少女がいる以上、笑い飛ばすことが出来ない。
「信じてもらえないようですね、無理もない話です。やっぱり直接目で見たほうが早いですね」
 そういってココノは聞いたこともない言葉を呟き始めた。
「それじゃあ、行きますよ。いいですね」
 はい?一体何を…。
 次の瞬間には、目の前は真っ白になっていた。
 あ〜、ホントに真っ白になることなんてあるんだな〜。
 薄れ行く意識の中、俺はそんなことを考えていた。
そして、一分後か、十分後か。とにかく時間の感覚がなくなったころに、誰かの声が聞こえた。
「…さん、一彦さん」
 だんだん意識がはっきりしてきたぞ。よし、まずは状況確認だ。
「一彦さん?」
たしかさっきココノが見たほうが早いって言って、それで…
「んん?ここは?」
 やたらと広い部屋、そして高価そうなベッドやテーブルがある。間違いなく俺の部屋じゃない。
 窓は出窓になっていて、照明はシャンデリア。一言で表すと西洋風ってとこかな。
 ちなみに俺はハリセンを握ったまま床に倒れていた。とりあえず椅子に座ってみる。
 ココノはふわふわと浮かんでいた。驚くのも疲れてきたぞ。
「ここはノワール、スカイで一番大きな街です」
 知らない単語が出てきたぞ。 「言ってることの意味がよく分からないんだけど…」
 そう言うとココノは軽く手を合わせた。
「そうだった。ちゃんと説明しますね。スカイというのはこの世界の名前です。一彦さんから見ると『異世界』ですね。ノワールは街の名前です」
 一呼吸して続ける。
「ちなみにこっちからみて一彦さんの世界はアースと呼ばれています。この世界では異世界の存在は常識なんですよ」
 わかったような、わからんような。
「そうだ、なにか聞きたいことはありませんか?」
 ここで質問タイム。早速一つ聞いてみよう。
「裕也と理奈…俺と一緒にいた二人は?」
 今この部屋に二人の姿はない。
「下で食事をとってますよ」
 そーいや俺も腹減ったな。昼飯食ってなかったっけ。
「んじゃ俺も。話は食いながらって事で」
 そういって立ち上がると少しふらついた。うまくバランスが取れないぞ?
「あ、気をつけてください。急に片目になったわけですから危ないですよ」
 片目?どういうことだ?
 その言葉に疑問を抱いていると、ココノが鏡を持ってきた。
「な、なんだこりゃ!」
 おもわず太陽にほえてしまった。それもそのはず、俺の左眼が真っ赤になっていたのだ。
 べつに充血してるってわけじゃない。黒目の部分が赤いのだ。
「アースの人がこっちに来るとこうなってしまうんです。おそらく『ググゥ〜』」
 う、腹が減った。
「あはは、まずは食事にしましょうか」
 笑うな、仕方ないだろ。
 下りてみるとそこは食堂になっていた。なんでも上の階は宿屋らしい。
「お、カズ起きたのか」
「カズ君おはよー」
 二人がじつに気のぬけた挨拶をしてくる。
「お前も食うか?」
 見ると二人の前には空になった皿が大量に積み重なっていた。この兄妹は二人とも大食いだったんだっけ。
 それはそうと。
「ずいぶん落ち着いてるな。いきなりこんなことになったのに」
 テーブルについてから二人に言った。すると裕也が答えた。
「まー、慌ててもしょうがないし。まずは腹ごしらえだ」
 いいのか、それで。
「いいからいいから。それにここのメシ結構うまいぞ」
 よし、俺も食おう。

    −5−

「食べ終わったところで話の続きを聞こうか」
 あー食った食った。大満足。
「そうですね、まずはさっき言ったその目の事です」
 いまさらだけど、他の二人はどうなっているんだ?
 二人の目をじっと見る。すると裕也は左眼が青、理奈は右目が緑になっていた。おお、光の三原色、ってそうじゃない。
「これは皆さんが魔力を持っていないからだといわれています」
 魔力?ってことは…。
「この世界の人は魔法が使えるのか?」
 裕也が質問をした。さすがオカルト大好き人間。この手の話題は得意なんだな。
「はい、そのかわりアースほどの科学力はありませんが。この世界では魔法が使えるのは自転車に乗れるくらい自然なことです」
 どんどんファンタジーになっていくな。
「なんで私たち、って言うよりカズ君をこの世界に?」
 今度は理奈が聞く。
「それはあの部屋でも行ったとおり、この世界を助けてほしいんです。今、スカイは存続の危機に陥っているんです」
 いきなりヘビーな話だな。
「西の城にいる賊が街を襲っているんです。私たちで彼らを倒すことが出来ないんです」
「魔法が使えるのに?」
「基本的に争いに使えるような魔法は存在しないんです。それでアースの人に助けをお願いしているんです」
 なんかめんどくさそうになってきたな。ってあれ?
「一般人なんか呼んでも役に立たないんじゃないの?」
 そんな賊なんかに勝てるはずがない。と思ったら。
「いえ、大丈夫です。スカイの人間はアースの人に比べて身体能力がかなり劣るんです。そのかわり寿命は二倍近くありますけど」
 なるほど、納得。それなら俺みたいなのでも平気なわけか。
「それなりに能力が高くて、なおかつこの世界の存在を認めてくれそうな年齢の方の中から選ばれたのが一彦さんだったのです」
 確かに、大人に言っても信じてくれないだろうな。
「よし、引き受けた!この世界はこの沢村裕也が救ってみせよう」
 裕也がいきなりテーブルに足を乗せて大声で叫んだ。
「本当ですか?」
 ココノが確認をすると、裕也は得意げにうなずいた。
「ああ、俺たち三人にまかせておけ」
「ちょっと、勝手に決めないでよ」
 今の裕也にそんな理奈の声も聞こえていないようだ。
「俺は一度でいいから、世界を救うヒーローになりたかったんだ」
 うわ、自分の世界に入っちゃってるよ。もう止められないな、これは。
「あきらめよう、こうなったら止めても無駄だよ」
「でも今日は見たい番組が…」
 そんな理由か。ってことは結構理奈も乗り気?
「あ、私に言っていただければ簡単に帰れますよ」
「困ってる人を見捨てるわけにはいかないわね。頑張りましょう!」
 こいつらノリが軽すぎるって…。
 いきなりこんなわけのわからない状況に陥ってるのに、順応性の高いやつらだ。
 まあ、いつでも帰れるってことなら別にいいか。命の危険はなさそうだし。家にいても暇だからな。
「よ〜し、カズもノリノリだな。それじゃー、さんにんでガンバロー」
 こんなのがこの夏の物語の始まりだった




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