「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



   第二章

  −1−

っで、賊退治に行くとして。このままってわけにはいかないよな…
「なあ、賊はどんな格好をしているんだ?こっちもそれなりに準備をしないといけないよな」
 裕也が落ち着きを取り戻したところで、俺はココノに聞いた。
「そうですね、基本的に私たちの文明では白兵戦は剣とか槍がメインの武器になります。ようは皆さんの中世時代ぐらいだと思ってくれるといいですね。ただそれに私たちは魔法を補助に使うわけですが」
 ココノは三人に食後の紅茶を注ぎながら話した。
「…そういえば、気になっていたんだけど…」
 理奈が疑問そうな顔をして言う。
「はい?」
「あの・・スカイの人は皆ココノさんみたいに小さいの?食事を運んできた人も小さかったけど…」
 たしかに、この体格差があれば俺らが負けるような気がしない。
「えっと、言い忘れてましたけど、普通の人はあなたたちと同じような体格をしています。ちなみに私たちは造られた生物なんです。所謂ホムンクルスと言われて魔法の基礎になる錬金術の最高傑作なんです」
「錬金術!いい響きだ」
 裕也が再び興奮してきた。が無視する。
「それで、私たちはあなたたちよりも小さく、また半永久的な生命を持ってるんです。そして、魔力の容量が多いのでアースとの行き来が普通のスカイの人よりも容易に出来るんです」
 ちょっと話が長いが少しは理解できるな。こんな小さい人間信じられないもんな、でも人工生命体のほうが驚きか。
「で、その最高傑作がこの宿には何でたくさんいるの?」
 裕也が興味津々にココノに聞く。
「マスター、つまり私たちを造ってくださった方がここの経営者なんです。立派な世界で一人だけの錬金術師なんですよ」
「ほえ〜、その人はどこにいるの?やっぱこの館の地下とかで日夜研究に明け暮れてるの?今すぐ会いたいな」
 裕也がより一層興味を引かれたらしく、くいつく。
「今はノワール城の方に出かけてます。ここを統治している王様がいるところですよ」
 それぐらいは創造が着く。
「その人が俺らを呼んだのか?」
「ええ、それで私が召喚役になったんです。マスターももうすぐ帰ると思うのでもう少し待ってください」
 俺は注がれた紅茶を一口飲んだ。
「それと賊についてもう少し聞きたいんだけど…」
「マスターってやっぱりすごい爺さんだったりするの?齢200歳とかのヨボヨボ?」
 裕也が想像をぶちまける。裕也、ちょっと失礼だろそれは。
 と、次の瞬間裕也が突然座っている椅子の足元をすくわれるように素転んだ。
『ガターン』
 椅子が大げさな音を立てて叫ぶ。
「いってー」
「…まったく、ヨボヨボとは好き勝手言ってくれるな、坊主」
『!!!』
 この部屋に入る一つしかない入り口に、一人の黒いローブを頭から被った人が柱にもたれ掛かるようにして話した。
「マスター!お帰りなさい」
 ココノが嬉しそうに言う。そしてその元へ飛んでいった。もはや裕也のことは無視である。
 こいつがマスター?やけに若々しい声だな、ここからだと顔が見えないな…
「ココノ、私は小山一彦だけ連れてくれば言いと言ったはずなんだが?なんだこの無礼者は?」
 ヤバ、機嫌を損ねたっぽいな。
「えっと一彦さんの友人の沢村裕也さんと理奈さんです。偶然一彦さんの家にいるところで会ってしまったので、一緒に連れてきました…」
 ココノが説明している間その人はこちらを睨んでいる。やっぱり機嫌が悪そうだ。理奈なんか少し怯えているぞ。
「…まあいい、この世界を認識は出来ているようだし使えるだろう」
 何か嫌な言われ方をした気がする。
「自己紹介がまだだったな、私の名前はシェラ、シェラ・マギスだ、よろしく一彦、そしてその友よ」
 その人は頭にかかったフードをはずし顔をあらわにした。そして俺に右手を差し出した。
女?しかもかなり若い。20代?それに…
「まじで超美人じゃん!」
「きれ――」
 裕也が俺の思考より早く吼え、理奈が驚嘆する。そう表現できないほどの美人。蒼く澄んだ長い髪の色、決して俺らの世界で染めて出来るような色じゃない、そして同色の瞳。どこか畏怖すら感じる。
 とりあえず俺は彼女が差し出す手を握り返す。
「俺とも是非握手してください!」
 そう言ってさっきまでこけていた裕也が彼女の手を取る。
「俺、沢村裕也って言います」
 完璧に舞い上がってるな、裕也の奴、中学時代も研修の先生に恋して猛烈アタックをしてたのを思い出すよ。もちろん玉砕だった。
「…さてそれで、君たちはここに来た理由はすでに聞いているのだろう?」
 シェラは少し困り果てたといった感じで聞いてきた。
「ええ、西の城にいる賊を退治してくれってことですよね?」
「簡潔に言えばその通りだ。準備はこちらで全てしてある。あとはそちらの心次第なのだが?」
 シェラは裕也の手を払い、俺に聞いた。
「もう任してください。賊なんてこの沢村裕也がすぐに片付けてきますから、大船に乗った気で待っててください」
 裕也が一人突っ走るように答える。
「…いいのか?」
 シェラが俺を見て確認する。どうやらシェラもはやくも裕也には迷惑を被っているようだ。
「ええいいですよ、でないとこいつが一人で何しでかすか分からないんで」
 俺はお守り役に徹して裕也が頑張ってくれるだろう。
「そうか、こちらとしては協力してくれるならどんな理由であれありがたい話だ。ココノ…」
 シェラはにこりとしながら、ココノを呼んだ。
「はい」
「この者たちの準備をするのに街を案内してあげなさい、街の者には話はつけてある」
「分かりました。……それじゃあ皆さん付いて来てください」
 シェラはココノの返事を聞くなりこの部屋を後にしていった。それを見届けてココノが三人の方を見て言い、部屋を出て行った。
 考えてみたら窓を見ても外は見なかったな。いったいどんな世界なんださっきは中世的なことを言ってた気がするけど…とりあえず付いて行くしかないか。
 俺は三人の先頭に立ってココノの後ろをついていった。まるでRPGの主人公だな。
長い廊下、赤い絨毯がひかれている。いくつも枝分かれしていてココノなしでは完全に道に迷うだろうな。
「まずは皆さんに合いそうな武器でも見ますか?私たちは争いはほとんどしないですけど、お城の武具大会とかは人気があっておかげで鍛冶屋も少なくないんですよ」
「武器ってやっぱり種類もたくさんあんの?カタールとかカイザーナックルとか」
 マニアックだな裕也、一般人には普通分からない類の武器だぞ。
「私は武器のことは詳しくないんで何とも言えないですけど。注文も受け付けてるんで希望の武器を作ってくれると思いますよ。それに魔力を付与することも出来るんですよ」
 ココノは自慢気に言う。まぁ、俺らからすれば信じられない能力を持った武器があってもおかしくないかもな。
 建物の玄関口が見えてきた。光はあまり強くないらしくその先が容易に見渡せるが、まだ全景はよく分からない。
 数秒後、そんなことはあっという間に答えを出した。いや、なに、別に驚いてないわけじゃないんだけど、あまりに…
「本当に西洋に来たみたい」
理奈が感嘆する。
そう普通に俺が想像する世界と大差がなかった。そりゃ驚いてないなんてことはないけど、ね…
「ひゅう〜、いいねー、はやく武器屋に行こうや」
 裕也のテンションが一際昂ぶっている。俺はっていうとまあまあかな天気も曇りで過ごしやすくなってるみたいだし。
「そうですね、ちゃんと付いて来てくださいよ」
 ココノが宙を浮きながらヒラヒラと移動している。魔法も便利そうだな。
 …しばらくして武器屋の前にやってきた。
「ここがそうです、マスターが話はつけてるそうですから。気に入った武器があったら言ってください」
「了解!」
 裕也が子供じみた明るさで答える。
ココノが玄関を開けるとそこからはこの環境とは異なる熱気が外に溢れ出してきた。
「うわっ、…」
 裕也が一番に入ろうとするが一歩下がった。
「いらっしゃい、待ってたよ」
 奥から威勢の良い男の声が聞こえてくる。俺たちは熱気が冷めるのを確認してようやく入る。
「失礼します」
 理奈は俺の後から緊張した面持ちで入ってきた。
「話は聞いてるよ好きなだけ見てくれよ」
 店の奥から中肉中背の男が出てきて言う。先ほどの声もこの男のものだろう。
「じゃあ失礼します」
 裕也が待ってましたと言わんばかりにあたりに飾ってある武器をなめまわすように見ている。俺も一番近くにあった長剣類の棚を見ることにした。理奈は自分の力を考えてかナイフ類を見ているようだった。
 確かにいろんな種類があるみたいだ。長剣でも厚さや幅、重心どれも少しずつ違う。
「兄ちゃん、あんたの持ってるそいつはなんだい?随分変った武器だね」
 鍛冶屋の男が俺のマイハリセンをみて興味深そうに見てきた。そうかこの世界にハリセンなんかあるわけないよな…
「これは俺たちの世界で軽い突っ込みで使う道具で武器なんて大層なもんじゃないよ」
「…カズが使えば凶器だよ…『スパァン』」
 裕也が小声で呟いたところで俺のハリセンが炸裂した。
「こんな感じで使うんだ」
「すごい画期的な武器だ、その炸裂音、音ほどのない破壊力…なんて平和的な武器なんだ」
 おいおい何を意味不明なことを言ってるの君は…あなた鍛冶屋でしょうが?
「いい案が閃いた。悪いけど気に入った武器があったら勝手に持っていって構わないから、ちょっと失礼するよ」
 男はそう言って再び奥へと消えていった。
「はぁ、何なんだ?」
「まぁ、気にしないで下さい。この世界でも変わり者で有名なんですよ彼は」
 そんな説明は別に必要ない気がするんだけど…
 俺も再度剣を手にとり見直す。
「カズこんなのどうだろう?似合う?」
 俺は振り向いて裕也を見る…大型の戦斧を担いでふらついている裕也がそこにはいた。
「なんだそれ…斧?体格が完璧に負けてるぞ、もう一発くらわして目を覚まさせてやろうか?」
「ゴメン冗談だよ、いくらなんでも本気なわけないだろう」
 裕也が急いで斧を元の場所に戻す。そう言えば理奈はどうしてるんだ?俺は理奈の方を見やる。
 理奈は真剣な面持ちでじっとナイフ類の棚を見ている。
「どうした?何を考えているんだ?」
「…カズ君、これってやっぱり人を殺す道具なんだよね…」
「?」
「これを使ったら人が死んじゃうんだよね…やだな…」
 理奈が真剣な面持ちの中に不安が入り混じっている。
「理奈…」
 何も言えない、そうだ考えてみたらこれは殺傷に繋がる。俺たちがどんなに有利な立場であっても俺たちが殺す可能性はいくらでもある。
「理奈、無理はしないほうが良い、自分が辛いと思うなら無茶はしちゃいけない」
 俺はこんなことしか言うことが出来ない。考えてみたら俺も考えが浅かった、いや考えないようにしてただけかもしれない。
「カズ君は怖くないの?」
 理奈は下をうつむいたまま聞いてきた。
「どうだろう、今は怖くはない・・かな?」
 何を言ってるんだ俺は…裕也はお気楽に武器をまだ探しているし。
「ねぇ、人殺しになっちゃうんだよ?それでもいいの?…私思うんだ。いくら違う世界でも人を殺したらもう今の自分じゃいられない気がするの…私浅はかだった」
 理奈はまじめな子だ、そりゃ後ろから不意に飛び蹴なんて無茶するけど根はまじめな子だ。考えてみたらこんなことに参加するのは無茶だったんだ。
「ココノ!悪いけど理奈を俺たちの世界に帰してはくれないか?」
「え!?あっ、はい。分かりました」
 ココノはどうやらボーッとしていたらしく驚いていた。
「どうかしたんですか急に?」
 ココノはこの状況を気づいていない。ついでに裕也も。
「いや理奈が見たいテレビがあるから早めに帰りたいって言うんだ」
「理奈、もう帰るのか?」
 裕也が間の抜けた声で聞く。お前はもう少し妹に気を使えよ。
「まぁ、急な話で疲れてるのもあるみたいだ。今日は帰ってまた今度来れば良いさ。裕也はどうする?俺はしばらく家に帰らなくても大丈夫そうだからこっちに残るけど」
 とりあえず理奈は帰ったほうがいい。裕也がもう少し妹思いなら…
「じゃぁ、悪いけど俺もいったん帰るわ、少し準備したいことがあるから。また明日から頼むよ」
「ええ、また迎えに行きますよ。じゃぁお二人はアースに帰るんですね?」
「はい」
「ああ」
二人が返事をする。それを確認してココノが再び意味の分からない呪文のようなものを唱えた。そして閃光が辺りを包み、次の瞬間にはココノを含めて三人がその場からいなくなっていた。
 はぁ、これは意外と大問題かもしれない。裕也が理奈を引っ張って来なきゃいいけど…俺はこっちの方が暫くは居心地いいからな。なんせ二千円で二週間は辛いからな。この二週間でこの事件を終わりにしてまた何事もなかったように日常に戻る。それでいいはずだ。
「これが良いかな?」
 俺は一本の長剣を選び軽く素振りをする。俺でも十分に振れる軽さと重心のバランス。これでいいだろう。
 俺が武器を選んだ瞬間再びココノが現れた。どうやら二人を無事届けてきたらしい。
「ただいまです…」
「お帰りなさい、ちょっと疲れてそうだね?」
 ココノも理奈同様に少し元気がなくなっている。
「ええこの呪文はちょっと他の呪文と違って疲れやすいんですよ。でも少し休めばすぐに回復しますから安心してください」
 いや、顔色悪いよ…今日はもう戻って待機したほうがいいかもしれないな。
「俺はもう武器の方は決まったから、俺も疲れているし今日は戻って休もう」
 とりあえずこのままじゃ気が落ち着かないからな。
「そうですかじゃぁ、その武器だけ今日は譲ってもらうとして、マスターのところに戻りましょう」
 ココノもどうやら帰れることが出来てホッとしていそうだ。まぁ俺も今日の所は疲れたし、頭の中を整理したいからな。
 そのまま武器屋を後にして、もと来た道を戻る。ココノは少し弱弱しく飛んでいる。
「本当に大丈夫か?」
「…え?何か言いました?」
 ココノはよほど疲れてるらしく俺の言ったことは聞こえてなかったらしい。
「いや、なんでもない」
さっきの建物に戻るとココノは何も言わずにフラフラとどこか奥へと飛んでいった。疲れはピークだったらしい。
「で、俺はどうすればいいんだ?どう考えてもココノなしでこの建物をうろつけと…」
廊下はいくつも分かれている。さっき通った道さえ憶えてない。どうしたものか…
「帰ってきたか」
 一つ先の曲がり角から少し前に聞いた声が聞こえてきた。
「シェラさん?」
 念のために聞いてみる。
「ああ、二人はいったん帰ったか。ココノもさすがに魔力を使いすぎたらしい。まぁしばらくは休ませてやってくれ」
「ええ、そのつもりで戻ってきました」
 シェラは近くに居るようだが姿が見えない。
「悪いが少し手伝ってくれないか?」
「いいですけど。なにを?」
 少しの不安が過ぎる。
「いいから来てくれ」
 問答無用かよ!しかしここで断るのも気まずいな。
 俺はとりあえず声のするほうに向かって歩いた。
角を曲がるが人影はない。??
「こっちだ」
 また先のほうで声が聞こえる。何とも不可思議な現象だ。どこかにスピーカーでもあるのか?
 そんなこんなで声に任せて廊下を歩いていった。そして行き着いた先は一つの扉。別になんも変哲もないただの扉だった。
「入れ」
 どうも威圧的だな。まあそんな性格そうだしな。
 とりあえず扉を開けて中に入る。そこにはさっきまでは声だけしかなかった。シェラが何か調べ物をしているのか本棚の前で立って何か読んでいる。
「来たか、急で悪いが早々に準備を整えて賊を退治しに行ってもらいたい」
 はぁ?なんですかいきなり?
「ちょっとどういうことですか?」
「こちらとしても予定外の事態が起きたもので、君らアースの者には急いで帰ってもらわないとならなくなった」
「それにしても急すぎませんか?」
 俺も動揺しているが、どうやらシェラからも何か焦りのようなものを感じる。
「理由は答えられないんだ。ただ君一人でも賊ぐらいなら十分に退治できるだろう。むしろ君一人のほうが…いや、とにかく、理由を聞かずに私たちの頼みを聞いてくれないか」
 何か唐突な展開だな本当に切羽詰まるといった感じだ。俺は嫌われているのか?しかし、そもそもこのために来たのも確かなんだよな。それに裕也がこっちに来るとなると理奈も連れてきそうだしな。これは早めに終わらして日常に戻っ方が俺ら自身のためなのかもしれないな。
「わかりました。行きましょう。こんな面倒なことはさっさと終わらせるに限る」
「ありがたい、それでは馬車を用意するから、その間にもう一度街に行って準備を整えて来てくれ。西の城へは馬車で片道2時間程度で着く出発は2時間後、勝負は午後8時野郎どもはきっと宴でも開いているころだろう」
 丁寧なご説明で。
「ココノとは別のものを付ける準備が出来次第またここに戻ってきてくれ」
「分かりました、それじゃあ行ってきます」
 とりあえず部屋を出る。どうも本格的に無理のあるRPGになってきた気がするな。どうも現実感がない。
 部屋の外に出るとそこにはココノと似た小さな少女が俺の目線の高さほどに静かに浮いていた。
「それではご案内します」
 あまり表情がないらしい。仕事にはうるさそうなイメージ。ココノとは正反対といった感じか。




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