「オッドアイ」
著者:創作集団NoNames



  −2−

 約束の2時間が経過した。俺は時間どおりに用意を済まして。屋敷に戻ってきた。ココノの代わりに案内役のホムンクルス、名前はリリスというらしいが、どうも話しづらい感があってそれ以上は分からない。
「準備は済んだか?」
 シェラが屋敷から気配なく出てきた。どうもあの蒼い目が何を考えているのか読ませない。
「ええ、早く行きましょう」
 俺のそろえた装備は長剣と篭手、胸当て動けることを重視しての選択だ。
「なかなか似合うじゃないか、それでは馬車に乗れ。御者には場所を伝えてある。後で私も追いかける。それまでには終わっていると思うが」
 本当随分簡単に言ってくれるよな、これから俺は人殺しになろうってのに。そんなことを考えながら馬車に乗る。
「一つだけ忠告しておくが片目の色が違うものが賊にいたなら油断はするな。それはお前と同じアースの者だ」
「つまりスカイの人間よりも強いと?」
「その通りだ。厳しいと思ったら無理はしないで私が来るのを待て。いいな、倒せる奴だけを倒せばいい、無理はするなよ」
 本気で心配しているような口ぶりだ。偽りはない。
まさか気をつかわれるとは思わなかったな。勝手に戦いに駆り出そうとしているのに心配してくれるなんてね。
「大丈夫ですよさっさと片付けてるんで上手い飯でも食わしてください」
「そうだな用意しておこう、では頼んだぞ」
 そう言うと馬車がゆっくりと走り出し、そして加速していく。少しずつ街から離れて行く。
 あれ?西だよな?夕陽がバックに進んでる気がするんだけど…
「運転手さん?なんで夕陽が向こうなのにこっちに来てるの?」
幌の向こうに座って居る御者に聞いてみる。
「こっちの世界では太陽は西から東に沈むんですわ。ちなみにこっちの世界は太陽が我々の大地を回っているんですぜ、アースの人にとってはなかなか面白いでしょう?」  御者の男はこれまた丁寧に説明してくれた。ありがたいこって。
 そんなくだらない話を御者と話しながら時間は過ぎていった。2時間というのも何かしていればあっという間だな。気が付いたらすっかり日が沈んで辺りはもう暗くなっていた。
「あんちゃん、悪いが馬車で入れるのはここまでだ。あとは歩いていってくれないか。城までは真っ直ぐ15分ほどで着くから迷うこともないだろう」
「ありがとう。おじさん」
おれは馬車から降りて一言そう返す。
「気をつけてな、俺はこの辺で暇をつぶして待ってるから、終わったらここに戻ってきてくれ、がんばれよ」
 御者のおじさんは力強く手を振って俺を見送る。
「さて、いよいよクライマックスですか、少々早いエンディングが見れそうだな」
 そんな独り言を呟きながら暗い林道を通る。城はすでに見えている。

 城の城壁まで来ると入り口に見張りが二人、ありきたりな展開。さてどうする。とりあえず石でも投げて気をそらしてみるか。
「ていっ」
おれが隠れている茂みとは反対側の石畳にわざと音がなるように仕向ける。
「カッ、カッ」
『!』
見張りがそっちに気をとられた。一人が石を調べに行く。もう一人は入り口のそばに残ったが石の方を見ている。
 しめた今のうちに!全力でしかし静かに見張り番の後ろを通って中に無事入り込んだ。
案外簡単なもんだな?警戒心が弱すぎんじゃないか?でもこのままじゃぁ何も解決しないか?やっぱ倒したほうが良いのか?…見つかってから考えよう。うんそうしよう。
 城の中は数本の松明が壁に掛けられている。1階には見張り番以外誰も居ないみたいだな。
「階段はどこだっと、あった」
 城の中をあまり警戒しないでふらつきながら上への階段を見つけた。
「上には何人居るのかな〜」
 ちょっとふざけて歌を作ってみる。が次の瞬間、最悪の場面に直面するとは予想だにしなかった。階段でばったり賊の一人と鉢合わせてしまった。
「はぁー面倒くせーなー、交代なんてもう少し酒飲ませろよ〜ヒック・・?なんだお前は?見かけない顔だな?新米?なわけないよな!侵入者だ!入り込んだ奴が居るぞ!」
 最悪よりによって交代の時間とは…やるしかないな、ここで囲まれるのは分が悪い。
 俺は剣を抜き、賊ののど下めがけて長剣を突いた。
「ゴメン!『ブシュウ!』」
「はぁ?う、ゲブッ」
賊は一瞬何が起こったか分からないといった感じで反応が遅れて痛みに苦しみだし、そしてあっけなく絶命した。
手に残る人を刺す感触。意外と容易い。
「いたぞ!一人やられてる。」
 下の階にいた。見張り番二人が俺を見つけて叫ぶ。仕方ないか、俺が無用心すぎたな。
「悪いがここは黙ってやられてくれ」
 見張り番に向かってそう行って階段を駆け下りる。
「うわっ!」
「ひぃぃ」
 見張り番だった奴らの胴を一連の動作で二人とも切り捨てる。俺がこんな動きが出来るなんて、信じられないな。どうも体が軽い。
 見張り番はその場で腹を押さえるようにして倒れ沈黙した。
 やはり手に残る感触、気持ち悪い一方でどこか快感がこみ上げてくる。
『ドタドタドタ』上の階から何人もの人が駆け下りてくることが城内に響く。
「これからが本番ってことかな?もうどうにでもなれ!」
 俺は強く叫び階段のふもとで待ち構えた。結果的に階段を通すことで俺は囲まれることを回避していた。もっともそのことに気が付いたのはずっと後の話だが。
 賊が階段をところせましと駆け下りてくる。人数が分からない。とにかくいっぱいと言っておこう。
 俺は長剣を横一線になぎ払う。先頭にいた賊を切り捨て後ろの賊に押し込む。そのまま階段を少しずつ登りながら賊どもを切り捨てる。
 俺はいつからベルセルクになったんだ。返り血を浴びながらそんな事を考えた。どうも人を殺しているのに罪の意識が薄い。嫌な人間だな。
「引けー!引け−!階段で戦うのは不利だ」
 奥のほうで賊の一人が叫んでいる。それを聞いてか階段から賊どもが上に上がっていく。俺はすでに何人を切り捨てたんだろうか?階段を振り返ることはしないでただ進んだ。階段が終わるとそこは広間になっているらしい。賊どもはここで宴会でもしてたんだろうか?今はすごい形相でこっちを見ている。
「いいか?囲むんだ1対1じゃぁ勝ち目がないがこの人数で一気にかかるぞ!」
 奥で指揮をとっている奴が居るな。そいつがボスか、それさえ倒せば…
「うおりゃぁ!!」
 考えている最中に賊が次々と襲い掛かってくる。時代劇ではこんなたくさんは一気に来ないぞ!
 同時に切りかかってこられるのはさすがに危なかった。篭手で振り切られる間に間合いを詰めて止め反対には賊の武器を持っている手を切り落とした。まさかこんな芸当ができるとはな、俺じゃないみたいだ。
「ぐわぁぁあああ!!」
腕を失った賊が大声で叫ぶ。さっきまでとは違って致命傷ではないからだ。その声に身の毛がよだつ。が恐怖心はない。今はこの展開を打開しなくては、はやくあの指揮官を落とす!
俺は指揮官の声が聞こえたほうに向かって突っ込む。どうやら俺を恐れてか俺に飛び込んでくる賊の数が減ってきている。別に俺が人数を減らしたからではなく。明らかに戦意がなくなっている。こっちとしてもありがたい、このままボスを倒してゲームクリアだ!
賊の中を抜けて一際豪勢な鎧を来た賊、否どちらかというと兵士のような風貌をした男が立っていた。
「ハァハァ、お前がここの親玉か?」
 少し息が上がってきたな。でもまだ軽い、むしろハイテンションだ。
「そうだとしたら、なんなんだ?」
 男は長髪の茶髮をかきあげ剣を構える。シェラと似て威圧的だが怖くはない。
「やめる気はないか?こんなこと…」
「はぁ?俺たちはこれが楽しくてやってんだよ!余計なお世話だ!」
男は剣を振りかぶり、それを即座に振り下ろす。
「!」
速い!さっきまでの奴らとは一味違うということか…でも、まだいける。
「どうした?怖気ついたか?」
 男は自分が優位な立場に居ると思い込んでいるようだ。自分の力にうぬぼれるタイプ。
「仕方ない」
 俺も剣を構える。
「お前アースの人間だろ?」
 男も剣を構えるがどこか余裕を見せて喋る。
「そうだ」
「ご苦労なこって、俺らを退治するためだけにわざわざ呼ばれたわけだ。終わればお払い箱お前らなんて所詮この国の都合に使われる体の良い奴隷なんだよ!」
 男は話しながら剣を横に振る。俺はそれを剣で受け止め間合いを詰める。
「別にいいじゃないか、ここの事情なんて俺に関係ないね。とにかく俺はお前を倒してさっさと帰らしてもらう」
「!」
間合いを詰めて剣を押さえるのを篭手にかえ、自由になった剣を鎧の胴の節にあたるところに突き刺す。
「ぐふ」
 男は剣を手から離してその場で膝から落ちた。
「The Endだな」
 しゃがみこむ男の目の前で俺は天井を見上げた。
「さ・・すがに、強いな、でも…苦しいのはこれからだ…お前…魔・・の…」
 男は何かを言い残して息絶えた。奇妙な言葉を残して。




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